身近にある「未知との遭遇」

 役所に出かけた。若い女性が、子供が泣き叫んで一カ所にいたたまれないのか、ベビーカーをあちこちに移動させながら、わたしのすぐ近くにやってきた。

 重いため息をついて腰を下ろした途端、子供がまた叫びだした。女の子のようだった。ママが背中をポンポンと軽くたたくが、何やら興奮している。

 その子供が、わたしと目があった。

 わたしはよくどこかで犬猫と遭遇したら手を振る癖があるのだが、とりあえず、小さく手を振ってみた。何も反応など期待していなかった。自分がよくやる癖なので、その先に何があるかなどはまったく考えておらず、あっというまにその動作は完了した。

 すると。

 その女の子がピタッと動きを止め、わたしを凝視している。もちろん泣き叫びもしていない。
 ただじっとこちらを見ている。おそらく「なんだこれは。ママ以外に何か自分の方角に向かって合図をする生き物などがいるのか」といった具合ではないだろうか。目つきはほんとうに「山の中で知らない生き物に遭遇」のような雰囲気である。

 ママさんは、急に静かになった原因も知ることなく、数十秒はそのまま安堵の表情を浮かべていたようだった。だがやがて子供は、わたしをじっと見ていてもそれ以外になんの動作もしないことで、「山の中で生き物を見たと思ったが実は岩だったんだ、人騒がせな」ということになったらしく、またむずがり出した。

 そこでまた手を振ってみてもよかったのだが、さすがにママさんにも気づかれるかと思い、どうしようと考えていたところ、その女性は窓口から声をかけられていったん場所を移動したようだった。

 ふたりが去ってから、隣にいた連れが「すごかった」と、ぼつりと言う。
 わたしもあんな経験は滅多にないので、新鮮な体験だった。

 とりあえず、未知との遭遇はどこにでもある、という話。