兵庫県の有名洋菓子店が従業員に長時間の残業をさせ、それが常態化しているものとして、労働基準監督署から二度目の是正勧告を受けたことが報道された。
どんな分野にでも法律を杓子定規に持ち込んでよいのかというご意見が、洋菓子関係者(経営者ではあっても少人数で店をまわしている規模)から——少なくともわたしが気づいた範囲だけで3人ほど聞こえてきた。技術の継承であるから短期間にたくさん教え、なおかつ、本人に早く実践力になってもらいたいという思いは、その方々を支える周囲からの「いいね」数で考えても、ある程度は、世間に共有されていることなのかもしれない。
だがやはり、過労死になるほどの労働時間については、何を持ってしても、言い訳は存在しない。
別の業界では、どうだろうか。
たとえば日本全体で数百人以下しかいらっしゃらないような伝統技術、伝統芸能の継承であれば、1日8時間で教えたら間に合わないのではとか、未就学児や児童のうちから日々何時間も稽古させて問題ないのかやら、いろいろな課題もあるだろう。それならば、杓子定規にどうのこうの、といったご意見が出てきたとしても、わたしはさほど驚かない。
(それでもわたし個人の立場としては、法律を遵守してもらいたいという思いに変わりはない)
菓子職人に関してはどうか。
何らかの経営上の改善で労働時間を減らす余地はあるはずで、すでにそうされているお店も多いとは思う。だがわたしが気になるのは、努力しているのに労働時間が長くなるという関係者のご苦労と一緒に、昔からこうだったので、この業界は仕方がないというあきらめが、関係者の言葉に散見されることだ。
朝から晩まで身を粉にして働いてきた人々を親世代に持ち、厳しく鍛えられた現在の中高年以上の方々は、修行はつらかったが当時のおかげで現在があるという考えが、どうしても頭の多くの部分を占めてしまうように思う。それを変更するように言われることが、自分の過去をないがしろにされたように感じてしまうということは、ないだろうか。
時短にしたら、手作業をおそろかにするようなもの、同じ味と技術が継承されないという危機感をお持ちのご意見も目にした。だが経営の効率化(商品のラインナップや提供時間帯の制限、改善)で、手作業や原材料などをそのままに活かしても、労働時間を減らすことはできると、わたしは考えている。
門外漢が何を言うと、経営されている方はおっしゃるかもしれない。だが客もまた、店を見ている。支えている。
経営の効率をよくすることで業界の労働時間を減らせるなら、「週に3日しか店を開けずに残りは休養または仕込みのみ」という店が仮にあっても、わたしは応援するし、買いに出かける。