牛乳そのものから、パン酵母は起こせない(原則)

 都内のあるお店に、ミルク酵母を自慢にしたパンが売られている。ある特定の酪農会社で売られている低温殺菌牛乳を使っているそうだ。そのお店のことはずっと以前から耳にしていて(お読みのみなさんも「ミルク酵母」という検索単語だけで、その店に楽々たどり着ける)わたしはいったい何のことだろうと、首をかしげていた。

 このお店やミルク酵母については、パン好きな方々や食関連のサイトで紹介されているが、どなたもその辺りは突っこまない。可能性としては牛乳に粉を混ぜて発酵させている(つまり発酵の大元は粉のほうで、無菌で販売されている牛乳は風味付けなどの補助である)ということだろうと思うが、それははたしてミルク酵母という呼び方で適切なのだろうか。

 ネットでも、ミルク酵母という存在に影響されてか「牛乳酵母の作り方は」という質問が上がっていることがあるが、おそらく語感の問題から、牛乳そのものをどうにかして発酵させ、粉と混ぜて元種にすると思っている人たちが多いのではと思う。

 あらためて、最初にその店について読んだ本の書名を思い出してページをめくってみたところ、勘が当たっていた。乳脂肪を抜いたあとの液体と、粉を合わせて酵母を育てていくのだという。

 古い本で、アマゾンでかなり高額で取引されているようなので、楽天の古本をリンクしておく。

 乳脂肪の抜き方についてはさすがにそこまで書いていなかったが、ヨーグルトと混ぜて牛乳を発酵させてから漉せば、液は「乳清」になるだろうし、どれくらい技が必要かわからないが牛乳を固体と液体に分離させることもできるかもしれない(その場合の呼び名は「バターミルク」になるのだろうか)——だが乳脂肪が高い生クリームならばミキサーでそれが可能でも、普通の牛乳でもできるのだろうか。

 ともあれ、市販されている牛乳そのものを発酵させてから粉に合わせるというのは不可能なので(加熱殺菌してからパック詰めして流通させているため菌は死滅)、ミルク酵母という言葉そのものが、誤解を招きやすいのではないかという話にとどめておくとしよう。

 最初に書いた、牛乳に粉を入れて発酵させる可能性だが、これは乳清またはバターミルク状態にしてから粉を合わせるよりも腐敗リスクが高いように思う。温度帯が合わない。牛乳は10℃以下保存くらいが妥当だろうが、粉が水分と合わせられてブクブク発酵する可能性を考えたとき、常温(25℃くらいまで)が、無難ではないかと思える。粉の発酵の可能性より先に牛乳が傷みそうだ。かといってすべてを冷蔵庫でおこなったら、仮に牛乳が傷まなくても、発酵が起こるのか起こらないのか未知数である。
 最初の数時間のみ、30℃程度にぬるくした牛乳と粉を合わせて、そのあとで冷蔵庫に入れてからときおりかき混ぜ、粉を足していくということなら、可能性はないでもないが、そこまでして牛乳で酵母をとるのは、冒険である。

 さて今日、実は梅酒に漬けておいたしわしわの梅が酵母になりそうなことがわかって、驚いている。アルコールの中に4ヶ月以上もあったわけだが、容器に水を入れて梅を落としてみると、1〜2日で水を吸って普通の梅のようになってきたため、さらに水を足して様子を見ていたところ、その数日後に小さな泡が出てきた。あと1日くらい様子を見て、少しだけ粉に合わせてみて、使えそうならパンを焼いてみたいと思う。