最近あまり地上波のテレビ番組を見ないので、栄養剤/栄養ドリンクでどういうCMが多いのか最近の傾向はわからないが、たしか30年くらい前に、いまでも覚えているテレビCMがあった。
女優の永島暎子さんが、都会的な家に帰ってくるところからCMがはじまる。バリバリのキャリアウーマンのような印象。
カメラに向かって、とても家族に言うのとは思えない、そつのない営業スマイルで「ねえお願い、今夜は外で食事しよう。疲れちゃってこれから支度する元気ないの。お願い、明日からちゃんと作るから」…
そして画面には、キューピーコーワゴールドという文字が出るのだ。
当時のわたしはいまほどものを考えなかったのだろうか。驚いた場所が現在とは違っていた。「会社に行ってくたくたになっても、普段なら食事を作っているのか、たいへんだな」と、当時はそんなことを思ったのだ。
いまは違う。どう考えても先に居間にいたと思われる相手(おそらく旦那)が作っていればいいのにと、まず考える。さらに「ただ待っていた相手に、お願いするのではなく、ただ誘えばいいのでは」と思うだろう。
ただ、やはり恐ろしいのは「食事なんか出前でいいじゃないか、まずは休めば」という方向に話が行かないことと、それを当時は考えなかった自分のことだ。
それでは栄養剤のCMにならないのだから無理もないだろうが、自分は当時「疲れている人に、飲んで元気になれとは何事か」と、それを考えなかったのだろうか。なんとなく覚えているのは「たいへんだな、この人」ということだった。自分には関係ない、自分はそういう立場ではないと思った記憶もある。
疲れている人に休めと言わない社会は、中にいる人間の感覚も、おかしくしていたのかもしれない。