先ほど、湯煎にかけるという表現を英語で説明するにはどうしたらいいのかと考えていた。さんざん考えて、おそらく間違いないと思ったのは —— put a bowl of (品目名) in a warm water bath / ボウル入りの○○をお湯の容器で温める というものだ。
日本語の「水」は、たいていは冷水である。いっぽう英語の water は、冷たいとは限らない。そのため本来ならば warm water bath の warm (温かい)をつけなくてもよいのだろう。だが、どうしても日本語の感覚にある「温かいからこそ湯」という感覚を大切にしたいと思えばつけずにいられないし、それに料理などで湯煎を説明するならば、warmをつけておくことがより丁寧であることは、間違いない。
湯について考えてみた。
ぬるま湯は、おそらく「飲むのにぬるい」場合に使われる言葉で、体温よりほんの少し熱いくらい(36〜38℃)かと思う(*1)。また、いったんかなり熱く熱した水を使って淹れる飲み物(コーヒーなど)は、経過にしたがって途中で冷めてくるため人の口にはいるころには変化しているものの、抽出をはじめるころは90℃前後のはず。これはむろん熱湯である。さらに、入浴について語る場面であれば——「熱い湯」とわざわざ湯に「熱い」をつけるものがあったとしても、人間がなんとか入浴できる温度であることは間違いないため、おそらく43〜44℃のことであろうか。
つまり日本語の言葉として「湯」だけの場合は「用途に応じた適温の範囲」を指し、そこに「ぬるい」がついたり、「熱い」がつくと「その用途にしてはぬるい、熱い」という話になってくるのではないかと考える。
お湯ではなく「熱い水」と言っては通じないのかと、hot water の直訳でものを考えてしまう日本語学習者もいるだろう。だが「水を熱して80℃にします」など、日常会話以外の場面で「水を熱する」ことはできても、もし日常会話で「熱い水」と言われたら「謎かけをされているのだろうか」と複雑に考えてしまうのが、日本語ネイティブかもしれない。
さらに複雑な話になってしまうが、日本語で「湯」には飲用と温泉の意味が強くても、中国語になるとスープ、薬湯の意味が多く含まれる。ときおり外国語間の単語は完璧に対になって存在していると勘違いしている人がいるが、水とお湯 water / hot water の含む範囲のほかに、漢字の通じる文化圏であれば、湯の内包する意味の範囲 hot spring (温泉)、 broth または soup (スープ)、薬湯(これも日本語では入浴の意味にとらえることが多いが、中国語ならばハーブティのように飲むもの)が異なる場合も。それを思えば、単語と単語が置き換えられるという事例のほうが、実際問題としてははるかに少ないと、言えるのではないだろうか。
(*1)
飲む「ぬるま湯」と、手で触って感じる「お湯にしてはぬるい」には若干の違いがあり、プールなどでは「温水」と呼ばれることもあるようだが、飲用の場面で「温水」とは、まず呼ばないと思われる。