従来なら保険薬(医師の処方で入手する薬)であったものが切り替えで店頭販売されているもの、通称OTC薬(over the counter drug 店頭で買える薬)のレシートを集めておけば、条件に合っていれば還付が受けられるという制度が、試験的に数年の予定で実施されている。
これまでドラッグストアで市販薬を買うには、たとえ薬剤師に相談する場合であっても、多少のうしろめたさがあった。自分で選んで買った薬が効いているのかどうか自信がなく、けっきょく病院に行き、医師の処方を受けて別の薬を買い直すことになるのではないかという懸念もあったし、店によっては薬剤師みずから「病院で診察を受けてみてはいかがですか」と言うこともあった。買うなと言わんばかりの薬剤師に、行く暇がないから試してみたいと強く言って、買ってきた経験もある。
そんなときに、このセルフメディケーションである。自分で考えて薬を服薬(あるいは塗布ほか)するというものだ。カタカナはかっこよい。意味もわからず、なんとなく語呂がよい気がしてしまう人もいるだろう。だが政府が思うほどこれが健康保険の使用抑制に結びつくか、病院の混雑が緩和されるかといったら、あまり期待はできないのではないだろうか。医療や薬に依存する傾向のある人は、新たな選択肢が増えた(処方薬のほかに、堂々と買える市販品が増えた)という程度に考えているように思う。
そして製薬会社やドラッグストアは、販路が拡充されたと喜んでいるのではないだろうか。つい10年くらい前に、通販で薬を売ってよい悪いの通達をめぐり、厚生労働省と大手通販サイトなどのあいだでかなり大きな争いになっていた。店なら薬剤師がいて説明をするが通販なら客が勝手に薬を買えるというのが大きな争点だった。だがこのところ、店で棚から何を選んでいても薬剤師のほうから声をかけてくること自体が、ほとんどない。すっかり風潮が変わった。(ちなみにわたしは当時から通販賛成派であったため、現状で文句なしである)
一般人、消費者の面から考えてみよう。市販薬で還付を受けられるという話もあるが、たとえばドラッグストアでペットボトル飲料やスナック菓子と一緒のレシートに載っている市販薬を、そのレシートを添えて申請するのは、一般人の心理として、なかなかハードルが高いのではないかと思う。かといって購入するときに申請のことを考えてレシートを分けてもらう人(それを思いつく人)も、なかなかいないだろう。なにやらわたしには「制度を作りましたから申請したい人はどうぞ、しなくてもけっこうですけど」という、消極的な意思が感じとれてしまう。
なぜこんなことを書いているかというと、先日施設から義母(高齢かつ要介護)の足に水虫があるのではと指摘を受けたのだ。だが今週わたしはそれだけのために義母を通院させることはできそうにない。事前にネットで薬の種類を調べて、下準備をしてから何軒か薬局をめぐって、水虫の薬を見てきた。どの店も壮観な品揃えだった。なかには1社の1ブランドであっても「軟膏、クリーム、液体、スプレータイプ(それがさらに3種類に分かれる)」といった具合で在庫している店があり、夏でまさにシーズンとはいえ、棚を見てくらっときた。
とりあえず、ひとつ買った。半月ほど使ってみて効果がなさそうなら、通院させようかと思う。