食べ物の旬がいつであるかなど、人が正確に認識できなくなってしばらく経つかと思うが、クリスマスには白いクリームと赤い苺という視覚的な刷り込みはすでに何十年も前から定着しているように思う。
前回の東京オリンピック(1964)ころから、人々の食生活や意識がだいぶ変わったようだ。それ以降を目安に、一般庶民の家庭でもクリスマスに丸いホールケーキを買ってみんなでカットして食べるという習慣はできつつあり、わたしが子供時代を送った70年代には、スーパーはもちろん田舎の小さな食料品店でさえ、製パン業者から仕入れるクリスマス用のデコレーションケーキを配達していた。
当時のものは、クリームは生ではなく、内部もジャムなど傷みにくいものがサンドしてあって、飾りはチョコの家とサンタのメレンゲ、あるいはバラのメレンゲもあった。クリームの飾りだと思って包丁を入れたら固くて切れず、そのままずぶずぶとスポンジに埋没したバラやサンタをご想像いただきたい。子供心にぎょっとした。翌年からは学習して、切る前によけておくようになった。
白いクリームに苺という組み合わせは、一般的になるまでもう少し時間がかかったように思う。もっとも都会でのことはわからないが、北関東の田舎では、そんな傷みやすいものを予約販売するような店はなかった。
そもそも苺の旬は、5月ころではなかっただろうか。暮れも押し迫ったこの時期に苺というのは、暖房やビニールハウス栽培などの設備が充実し、流通や保管に冷蔵手段が可能となった時代を迎えて以降に可能になったものだ。洋菓子専門店に普段使いの苺が季節を問わず流通するようになった時期はわからないが、クリスマス時期のケーキとして一般家庭への浸透は、おそらく80年代からではないかと思われる。栃木の有名なブランド「女峰(にょほう)」も、たしか80年代だった。その後に数多くの苺ブランドが登場した。
白いものにつつまれた赤というイメージが、日本人の感性に合うのだろう。どれほど「旬のものを食べよう」と言うひとであれ、温室栽培された冬の苺を拒否することは、ほとんどあるまい。それくらい人々の生活に密着している。
かぼちゃも実は夏に収穫し、しばらく寝かせて秋冬に出荷する。寝かす前のものは甘味が足りないのだそうだ。
レモンは冬から3月ころまでに収穫する。真夏にレモン味の飲料や菓子が出まわるが、その時期に生のレモンは入手できない(少なくとも国産は無理)。だが夏のイメージで定着しているところに「旬である春こそレモンを」と主張したところで、聞く側はあまりピンとこないだろう。
先日わたしはクリスマスのケーキ飾りをいくつか購入しておいた。斧に見立てた飾りも買ったので、ブッシュドノエル風にロールケーキを作って撮影してみるのもよいかもしれない。果物を入れなければ多少は日持ちするので、急いで食べねばという不安もないし、いざとなれば冷凍できる。
わたしは冬の苺は(高いこともあって!?)めったに買わない。寒い時期に冷たい牛乳をかけて食べる気がしないし、すぐ傷んでしまうので1パックを買うのがもったいない。春になったら、買ってみるとしよう。