わたしが最初に正社員として勤めた会社は、退社して数年すると、羽振りがよくなかったわけでもないだろうに、もう社名を聞かなくなっていた。わたしは派遣会社の正社員として銀行の事務センターに出向していたのだが、派遣業界はその後に大発展を遂げ(業界的には大発展だが人材を大切にしていた派遣会社ばかりではない)、いろいろな有名企業が派遣をはじめた。だがわたしがいたその会社は、入社時に説明を受けたかぎりでは、そんな時代のずっと前から地道に派遣業をしていた。
どうも、その後の派遣業界の躍進で統廃合が進んだらしく、わたしのいた会社とアディアスタッフが合併し、それがさらに数年後には社名が変更になって、現在のアデコになったようだった。
そして、先ほど何を思ったのか、最後に勤めていた会社を検索してみたくなった。ところが同名で異業種の会社が検索されて、驚いた。
いちおうあの会社は当時そこそこ景気がよく、株式上場をしていたんじゃなかっただろうかと、気になった。いつどうなったのかと調べたが…。わたしが退社して数年後に、おそらく現在その社名を名乗る会社などと社名の競合でもあったのか、社名を微妙に変更したようだ。そして数年前には、さらなる大きな社名変更をして、まったく名残のない名前になった。いまは本社も引っ越しして豊洲にあるという。
なんだ、まだあの場所にあったらどうしようと、麹町を歩くたびにドキドキしていたが、そんな心配は要らなかったのだ。もっともわたしの知っていた上司や先輩らが会社にいたところで、とっくに定年になっていたはずだから、もともと何も気にしなくてよかったのだが。
まあ、世の中には、何十年が経過しても「ああ、あの会社」と言ってもらえるような存在もあるのだろうが、たいていの場合は「○○町にこんな会社がありまして」という話になるのだろう。
その会社の近くにあった昼に弁当を販売する小料理屋で、大きなメンチカツの弁当を買っていたことを、思い出す。たしか「きんつば」の有名な一元屋と隣接していた。あのあたり、どうなっているだろうか。次は堂々と麹町に出かけて、見てこよう。