ネットで毎日新聞を見ていたところ、誤った事実という表現があった。その記事を紹介した社員さんがたまたまそう書いたのかと思ったが、記事の本文中にもその表現が使われていた → 2020.03.09 「部費横領」誤情報で強制退部 「甲南大対処せず」学生が自殺 遺族、検証求める
神戸市の甲南大2年の男子学生が2018年10月、「学園祭の模擬店の売上金を横領した」などの誤った事実を理由に文化系クラブを強制退部させられ、その情報が広まったことで自殺していたことが、関係者への取材で判明した。
横領の事実はなかったにもかかわらず追い詰められて自殺に至ってしまった学生さんのお話であり、記事の内容はたいへん痛ましいことである。その記事を拾って日本語についての話をするのは心苦しいのだが、どうしても気になったので、たいへん申し訳ないが、今回は書かせていただく。
まずネットで、誤った事実という単語を引用符でくくって検索してみたところ(注: その表現をずばり使っている事例のみ検索するため引用符でくくり)、最近では森法相がゴーン被告逃亡の際にその表現を使っていたほか、文科省の資料の文言としてもひとつ見つけられた。
それ以外の事例としては、誤った事実認定(誤ったは認定の部分にかかると解釈可能)など、純粋に「誤った事実」ではないものも見つかった。
さて「事実」だが、たとえば新明解国語辞典によれば「実際にあった事柄としてだれもがみとめなければならないこと」と説明されている。
いったんは多くの人が実際にあったと考えたこと、という風に捉えればいいのだろうか。事実はあとから事実でないとわかっても仕方がないという、多少はゆるぎのあるもので、その点において真実よりは少し普遍性の度合いが下がるのだろうか。
さすがに真実のほうは、もう少し揺らぎが少ないものであってもらいたいが、そちらもまた同辞書によれば「あらゆる点から見て、それだけが偽ったり飾ったりしたところの無いそのものの本当のすがたであるととらえられる事柄(様子)」だそうだ。
さて、本題にもどろう。
仮にここで「誤った事実」を使わずに、毎日新聞さんの気持ちになって日本語を考えてみるとどうなるか。なんと表現すればいいのだろう。
「誤った申し立てを理由に」では、具体的すぎて意味が狭まるだろうか。申し立てが誰かからあったことは発端に過ぎず、それを事実として認定した誰かにより退部の判断となったのであろうから、申し立てでは、やはり意味がずれることになる。
誤って認定された理由を元に、では長すぎる。
ここはやはり「誤った事実認定」と、認定をつければすっきりするような気がする。
意外にこの件では、検索してもわたしのようなことを書いている人はほとんどいらっしゃらなかった。今後も事例が見つかったらメモしておこうと思う。