戦時中にかなりの数の人が亡くなった東京への空襲。とりわけ、ひと晩で100万人が亡くなったとされる東京大空襲は、3月10日夜のことだった。
外国の歴史教科書などでもあまり語られず、日本でも戦時中の大きな惨事といえば広島と長崎の原爆がよく語られるが、ひと晩で100万人というのは、想像もできない規模だ。それなのになぜ、戦後の日本人はあまりこのことを大きくとりあげずに過ごしてきたのだろうか。不思議でならない。
さて、山田太一の1981年の小説で「終りに見た街」というものがある。ねんのために書くがそれが正式名称なので「終わり」と書かないものの、「わ」を入れないのは落ちつかないが…。まあ、それはおいておこう。
いまは亡き俳優の細川俊之が主役を演じてテレビドラマ化された。隣家と主人公の家の2軒のみが、昭和19年にタイムスリップしてしまう話だ。彼らは周囲から怪しまれてしまうが、なんとか未来人であることに気づかれないように、戦時中の世の中に溶けこもうと努力する。
だが東京大空襲だけは、なんとしても、被害を低く抑えたい。そう考えた主人公らは、どうにかして人々に危険を知らせようとするが…。
最後の最後で、そこが自分たちが知っていたつもりの昭和19年ではなくなっていたことに主人公は気づく。それが、最後に見た街の姿だった——。
一度しか見ていないが、最後のほうで聞いた細川俊之の叫ぶような独白「歴史とちがーぅ!!」という声が、いまだに耳に残っている。印象的な作品であり、機会があればソフト化か、あるいは配信サービスにでも入れるとよいのではないだろうか。
山田太一は、80年代くらいにはかなりの作品数をこなし、超のつく売れっ子だった。最近の作品は存じ上げないが、闘病中であると伝え聞いている。
2011年以降は、3月11日を思えば東日本大震災のことで頭がいっぱいになった。だが今年はそれも新型コロナウィルスの件で慰霊祭すら行われなかった。
東京大空襲も、東日本大震災も、どちらも人がずっと覚えているべきことだ。新しく何かを作るのがたいへんならば、昔の映像作品をリマスターして、ぜひ活用すべきだと思う。