かつて「場所」には、匂いがあった

 たまたま検索に引っかかって思い出したのだが、2017年と2019年に「国鉄のにおい」をイメージした商品が、それぞれ発売されていたらしい。国鉄のにおいとは何かといえば、わかる人にだけわかるのだろうが、全員が同じ記憶かどうかはわからない。少なくともわたしに関しては、高校までいた北関東から東京に出てきてまもなくくらいまで感じていた「ああ、あれ」というものが、思い浮かぶ。

 また、営団地下鉄(現在の東京メトロ)でも、浅草あたりから乗る銀座線には、何らかの匂いを感じていた気がする。

 これを書く直前に話をしていたところ、家族が言うには「映画館とか、自分と違う世代(簡単に言ってしまえば若者から見ておっさん世代)の行く場所には、いつもと違う匂いがあった」とのこと。たしかに、なんとなくそれはわかる気がする。そして場所にかぎらず、昔の大人には、いわゆる加齢臭とはまた違うのだろうが、独特の匂いがあった。たばこなのか、仁丹なのか、そのあたりは不明だが、悪臭というのではなく、会話する程度の距離に行かないと気づかないものだった。

 さて、物理的に、実際に「場所の匂い」があったとしてだが、何だったのだろう。
 たとえば湿気吸着や掃除対策に、駅におがくずを常備していたのかなとか、映画館などはあちこちが木造で、椅子やその革張り(または何らかの素材)が現在わたしが慣れているものとは違うものだったのかなとか、あれこれ考えるわけだが——。
 感覚が過敏になっていて記憶に残りやすかったというだけの可能性もある。子供のころから、東京までやってきて電車に乗るというのは非日常なイベントであり、緊張していることもあったはずで、ささいなことが記憶に残りやすかった可能性は否めない。何よりも、東京にいよいよ暮らすということになりまもなくから、銀座線に匂いがあった記憶が、不確かであやふやなものになってきた。慣れてしまえば感じなくなる程度のものだったのか、あるいは匂いは、実際にはなかったのか。

 だが、どういうわけか、国鉄のにおいは鮮明だ。ずっと覚えている。あれはなんだったのだろう…。

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