カスハラ(客からの店員への迷惑行為)、パワハラ(職場などで上の立場からの権力乱用)、アカハラ(学内で上位の立場から研究者や学生など立場の低い人への迷惑行為)、スメハラ(迷惑になる匂いを発する?)、マタハラ(妊婦への嫌がらせ)…いったいいくつあるのか、○○ハラ。
これらは縮めて使われることが多い「セクシャル・ハラスメント」をほかの言葉にも当てはめようとした結果なのだろうが、セクシャルが形容詞(性的)であることと比較して、上記の例はどれも「名詞+名詞」であるので、カタカナ語として単独で考えても、意味がなかなかとれない。それらのカタカナと一緒に事例を見聞きして初めて「ああ、こういうことが言いたいのか」となる。
ちなみにacademicは形容詞だが、academic harassmentという単語を実際に使っているのは日本の大学が書いている英語ページがほとんどで、ネイティブとして英語を書いている人たちの文章には、これはあまり遭遇しない。
日本語で○○ハラと表現されているものの多くを英語にする場合は、bullying(いじめ) / abuse(乱用 などの単語を使って、そのあとに前置詞付きで分野を示す——たとえば in academia (学内での、または学術分野での)などと表現するのが一般的だ。
迷惑な行為を片っ端から○○ハラで表現することで、言葉の運用レベル低下や日本語の語彙が貧弱になることも心配であるが、それ以上に、当事者にとっては人生の大きな問題を左右されかねない性的嫌がらせや、職場での上司による権力乱用を、逃げることもできる場合がある「嫌いな匂い」や、あきらかに相手の暴力的言動を法的機関に相談できるレベルの「客からの嫌がらせ」らとまとめて○○ハラとすることに、それでいいのかという怒りに似た思い、そして個々の問題の重大性が薄れて事態が矮小化してしまうことへの大きな不安がある。
便利だからと、なんでもハラを付ける前に、もう少し考えるべきではないか。