以前に「江戸のファーストフード」という本を読んだ。火事を出してはいけないという考えから、よほどきちんとした台所を持つ屋敷はともかくとして、独身者や少人数の家族が暮らす長屋では、煮炊きは歓迎されなかったという。家といえばほとんどが木造で障子が多かった時代であり、しかも関東平野は風が強い。いったん火を出したら、周辺の区域を先回りして壊し、延焼を防ぐしかなかったのだ。
庶民は自分で料理をする代わりに、手軽に利用できる屋台や、窓のすぐ外まで何らかの商品をかかえてやってくる物売りから、食べ物を買っていた。さながらファーストフード天国のようだったのではないだろうか。
そして、現代の東京。
コロナ禍で中食(なかしょく)が増えたこともあって、最近の高円寺界隈の商店街では、あいているスペースに持ち帰りに力を入れた飲食店が入居するようになった。揚げ物や、点心、エスニックなどが多そう。座席数はさほどなくとも、持ち帰りを意識していそうなキャッチフレーズや、少しでも入店しやすいように中がよく見える工夫(ガラスの比率が高い)がなされているように思う。
この不景気というのに、なぜか開店する店はけっこうあるようで、新店舗を見かけるたび、わたしは上記の本を思い出す。