大昔に読んだらしい、岩井志麻子の「ほっけえ、きょうてえ」を本棚に見つけて、ぱらぱらとめくってみた。
岩井志麻子作品は、それほどたくさん読んだわけでもないのだが、怖そうな話に思えても、たいていの作品でオチが同じ雰囲気を持つ。この本に収録されている4作品だけを考えても、どれも似て感じられた。
一度読んだ本なのでそれほど真剣にめくっていたわけではないのだが、最後の作品で何度も「囲炉裏を切る」という表現が出てきて、それが何やら気になった。
おそらくわたしは幼少時に「電気ではない掘りごたつ」が日本にそこそこあった時代を過ごした、最後の世代ではないかと思う。その後はどの家も電気ごたつか、あるいはこたつそのものを使用しなくなった。そのため「こたつ」と言われればまだ馴染みがあるが、囲炉裏と言われると部屋を暖めるというよりは煮炊きのための設備という印象だ。
実際には、煮炊きと暖房のどちらの機能もあったのだろう。家の中で人が集まる部屋の中央に、囲炉裏はあった。
囲炉裏を切るとはなんだろうと、考えてみた。最初はわからなかったが、文脈から部屋に囲炉裏を設置することであるというのはわかった。では「切る」とは。検索してみたところ、どうも板の間の床を「切って、囲炉裏にする」ということらしい。
大昔の日本の家屋はすべてが畳だったわけではなく、煮炊きをする部屋など実務的な生活空間は板の間だったのだなと、いまさらながら思い至った。