夜中に地震があった。おそらく2時くらいだっただろうか。関東震源の場合はスマホにお知らせ表示が出るよりも早く地震があるので「ああ今回も関東か、嫌だな」と思った程度だったのだが、ほんとうの「ざわざわ感」は、そのあとにやってきた。
それからしばらくのあいだ、ものを大量に積んでいることに定評があるわが家(自慢にもならんが)において、部屋の隅で音がしていた。季節外れのものをつつんでいるポリ袋が「かさかさ」と、動くように鳴るのだ。小さい音ならば小虫(または最悪の場合でも黒いあのG)と思うが、その軽い袋がおいてあるあたりから「ゆっくりとずり落ちていく」ような音が止まらない。
ずり落ちてくるような音といっても、その袋は安定しているのだ。そしてしばらくのあいだ結び直しをしていないから、内部に妙な生き物でもはいりこんでうごめいている音というわけでもない。軽い袋で、目視のほか手でも触れてみたが「なぜこれが揺れて、ずりおちるような音をたてるのか」を、誰かに聞いてみたいほどだった。
もしや体感ではわからないような地震がずっとつづいているのかとも思ったが、それならば周囲のもっと安定していないものが揺れてもよさそうなのに、同じ袋が「ずり落ちるように」鳴る。
気にせず寝てしまえと目を閉じたが、すると今度は、近くにあった別の袋(ふたつ)から、先ほどよりは軽微な音が聞こえてくる。今度はずり落ちるというよりは、表面に何かが当たっているような軽いカサカサだ。
仕方ないので、聞こえなくなるまで目を開けて、じっとしていた。やがて音はとまった。
寝ることにした。
なんだったのだか、いまだにわからない。
ただ、確実に言えることは「10年以上も住んでいる家でこんなことがあっても“不思議だね”で片づけられるが、入居の直後であれば“ここはやばい家なのか”と騒ぐ人がいるはず」ということだ。
人の実体験に基づく怪談を読んでいても、10年以上も暮らす家で何があったと書く人はほとんどいない。たいていは入居すぐだろう。
ようするに、気の持ちようである。