ものごとの優先順位

 先ほどネット上のあるコミュニティでのことだが、できたばかりでバタバタしていることが誰の目にも明らかな場所において、ちょっと変わった光景を見た。普段は「ここをこうするといいと思います」といった意見やら、「バグなのか仕様なのかわからないけどどっちですか」やらの投稿で掲示板が賑わっているわけだが、そこにぽつっと、変わった書き込みが。

 一流でありたいなら、そして人に安心してもらいたいならば、公式サイト上でこれこれの説明が簡単に読めるように、そしてクリックするだけで必要な要望を出せるようにするべきではないか。だがここはまったく何も整っていない、と。

 どうも話を聞いていると、ご自分が緊急にそれら情報掲示や表示の改善を必要としているわけではなく、最初のうちから実現されていない状態は好ましくない、という考えに基づくものらしい。
 最初に対応した人が面くらってしまったのか、途中で別の人が助け船を出し「意見としてはわかるが、それはいま優先順位が高いとは思えない。要望の記録として専用掲示板に投稿しておくだけでいいのではないか(すぐ実現しなくても困る人はいない)」と、取りなしてくれた。なるほどいろいろな人が世の中にはいるものだ、そしてどんな人が来ても的確に自分の意見を言える人は柔軟だと、改めて感じた。

 妙なたとえ話かもしれないが、客船が嵐で航行不能になったとしよう。そのうち一部の人々が小さな島にたどり着いて、救助を待つまで短期間の居場所を定めることになった。
 まずは寝る場所の確保(雨露のしのげる場所探し)、食料と飲料水の確保、交替で安全確保のための見張りなどをしなければならない。それらが確保され、人々が安心できるまでの期間(数日もしくはそれ以上)は、誰しも無我夢中であるはずだ。

 だがその最初の日々で、「各人の労働内容や時間に不公平がないように誰がどう管理していくのか」とか、「不満があったとき、喧嘩が起こったときの仲裁役は誰であるかを決めておこう」とか、そういう発想はほとんど浮かばない。仮に心に浮かんでも口にできない人が多いだろう。なにせ生活そのものが脅かされている状況で、優先順位というものがあるからだ。

 ようやく状況が安定してから、細かいことを話し合えるようになる。「衣食足りて礼節を知る」の通り、心に余裕がなければ細かいことを話し合うのは難しい。

 そういったことを普段から考えていると、「いまは口にするときではない」という自制心が働いてしまうのかもしれない。それはそれで頭が凝り固まってしまう手前かもしれず柔軟に考えなければいけないはずが、とっさの場合ではやはり対応に困る。
 だが、優先順位が低くとも理想を口にした人を、否定したり不快に思うのではなく「いまはそのときではないと思うが、要望だけ出しておけば」とすぐ説明できる人は、ほんとうにすばらしい。

投稿者: mikimaru

2021年現在「バウムの書」、「お菓子屋さん応援サイトmikimarche」などのサイト運営に、力を入れています。 かつててのひら怪談というシリーズに参加していたアマチュア物書き、いちおう製菓衛生師の資格を持っています。 バウムクーヘン関連や、昔からの知人には、「ちぇり」もしくは 「ちぇり/mikimaru」を名乗っています。

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