2011年に癌で他界した俳優、入江保則さんの著書である。半年以上も前にKindleで購入してあったのに、読むのを忘れていた。
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著者は東日本大震災の直前に雑誌やテレビで癌を公表し、(震災の話題に埋もれてしまうまでの短期間とはいえ)たいへんな話題になった模様である。この本は延命治療をせずに直前までひとりで暮らしつづけ、最後は事情により病院で亡くなった著者の、春からの数ヶ月を描いている。(事情によりと書いたのは住んでいた賃貸アパートが老朽化で取り壊しになるため、最後の数週間のあいだは住む場所がなくなってしまったかららしい。本文中からはそのあたりの事情がよくわからなかったので、読了後にネットで調べた)
50年以上も役者として芸能界にありながら65歳を過ぎた数年のみ、自分がやっと役者になれたと満足感をいだいたと書かれていた。それが役者として絶頂であり、70を過ぎてから癌がわかったとしても悔いはないと、実にすがすがしい描写がつづく。かつての芸能界の裏話などもちりばめられ、あっというまに読み終えた。
誰でもこんなにすっぱりと思い切れるわけではない。著者自身も、若い人であったり、自分のように数年間とはいえ仕事で満足できた経験を経ていない人であれば、もっと生きたいと思うに違いないと書いている。3回結婚し、3回わかれてしまったが、もし次回があるなら今度こそ添い遂げられる関係になれたかもしれないと、それまでの自分は自分についてあれこれ思い悩み、まるで自分と結婚したかのような生活に相手をつきあわせてしまっていたのかもしれない、と気づいたのだそうだ。だがお子さんたちとも関係は良好のようで、ときどきお見舞いにやってくる方々の話(とくにスペイン人と結婚した次女さんが病院で血液を見て「血のソーセージという食べ物がある」という話をするなど)は、なかなか楽しい。
わたしは周囲にあまり長患いで亡くなった人を持たず、実父は突然死、義父も突然死、義母は死を連想していなかった短期入院の10日後に亡くなるなど、あっけないものが多かった。自分はどうなるかわからないが、若いころからだらしなく「明日やろう」と用事を溜めることが多かった状況だけは、そろそろ改善しておかねばならないと考えている。