以前から、袴田事件は証拠捏造が疑われていた。一年も味噌樽にはいっていた証拠の衣類といいながら、なぜ生地に白いところが残っていて血痕が肉眼で見えるのか。ありえないにもほどがある。素人でもわかることだが、素人の常識と無関係な裁判所にはわからないようなので、弁護側やマスコミは複数回にわたって味噌樽に衣類を漬けるなどの検証実験をしてきたはずだが(少なくともわたしは複数回その話を聞いたし、テレビでも見た)、それがいまになって、拘留48年でやっと釈放、再審決定だという。
再審決定と即日の釈放は、めでたいことではあるのだが、長期に及ぶ拘束でご本人の健康状態も悪く、これ以上は待ったなし…それどころか、いままでですら異常すぎる状況だった。なぜこんなに年数がかかるのか。
警察と検察と裁判所における、関係者の世代交代がおこなわれるのに、30年以上かかるということなのだろう。関係者が少しでも残っているうちは、それぞれの役所にメンツがあるので前任者の意見に合う話しか出せない。実にくだらないメンツではあるが、本人たちはそれがくだらないことに気づいていないので、いかんともしがたい。自浄作用がまったく期待できない、よどんだ空間に棲まう人々である。
健康状態のきわめてよい男性であったにせよ、48年間といえば人生の半分以上の年数である。まして死刑が執行されるかもしれないという恐怖と緊張感の中で、精神的にも異常をきたしたとされる今回の袴田氏にいたっては、人生の「かなりの部分」が失われたのだ。誰がどうわびるのか。誰が癒やすのか。もっと早く動けなかった裁判所を許す気分にはなれないが、この期に及んで抗告をもくろんでいるらしい静岡地検には、あきれてものも言えない。おきまりの儀式として抗告するポーズをとるのか、おおまじめに抗告するのか。するのであれば、責任者が堂々と顔をさらして、記者会見をしてもらいたいものだ。
日本の裁判は遅すぎる。警察と検察も、つるみすぎ。
めでたい日と思えばいいのか、いまだこんなに遅れている国に住んでいることを嘆くべき日なのか、複雑な気分である。