2014年の映画「猿の惑星:新世紀(ライジング)」をオンデマンドのレンタルで見た。原題は Dawn of the Planet of the Apes で、猿の惑星の夜明けを意味する。ちなみに前作の「猿の惑星:創世記」の原題が Rise of the Planet of the Apes であり、ライズという言葉は、原作では前作のほうにはいっている。
子供のころ、テレビでチャールトン・ヘストンの「猿の惑星」を見て、かなり衝撃を受けた。もちろん誰でも知っているあのラストシーンである。砂に自由の女神がなかば埋まっていた。地球は破壊され、そのあとに猿の文明が出来ていたというオチだ。
その次の「続・猿の惑星」くらいまではストーリーを覚えているのだが、それ以降は曖昧。なにせそのころ日本では類似品の「猿の軍団」という実写ものが堂々と放送されていて、頭の中が猿で飽和状態だったように思う。それにしてもあの「軍団」だが、アメリカの映画に設定でかなりおんぶしており、多少は敬意を払ったのだろうかと心配になるが、おそらく何もしていないのだろうな、当時はそういうことが緩やかだったのだろう。
そして2001年のティム・バートン作の猿の惑星。これは流れは別作品なのだが、猿がなぜ進化し、巨大な猿の神をあがめているのかが、最後のほうにわかって、なるほどこういうことだったのかと、ふむふむと納得。別系列の話なので細部まで記憶しているわけではないが、猿の格好をした役者たちが豪華だった。ティム・ロス、ヘレナ・ボーナム=カーター、それにケイリー=ヒロユキ・タガワもいたなぁ。
さて、近年の「猿の惑星」2作だが、これは内容としても猿デザインとしても、かなり傑作なのではと思っている。
まず、創世記のほう…
ジェームズ・フランコ演じる製薬会社所属の学者がアルツハイマー治療薬を開発し、猿で実験をするが、たまたま大がかりな発表の際に気が立っていた被験者(猿)が暴力行為に及んでしまい、もうこんな研究をつづけてはならないといわれる。だが彼にはアルツハイマーの父がいて、どうしても薬をあきらめきれずにいた。妊娠して気が立っていただけだったが命を落とした母猿から小猿をとりあげ、自宅に連れかえる。小猿のシーザーは母猿を通じて薬の影響を受け、知能の高い猿となっていた。
症状の進む父親を見かねて、彼はついに、父親にその薬を投与してしまう。いっぽう、彼の父を守ろうとして迷惑行為に及んだシーザーは、猿のいる施設に強制収容されることに。
愛情たっぷりに育てられたシーザーだったが、虐待され、人間への憎しみを育てている周囲の猿たちに同情するうち、人間とは袂を分かつ決意をする。
そして今日見た新世紀のほう…
前作から10年後。シーザーは山深い場所に猿の集落を築き、人間たちは俗称「猿インフルエンザ」と呼ばれる病気で(致死率95%以上!!)ばたばたと数が減ったため、幹部の猿たちと「人間最近見ない、滅んだか」などと話しながら暮らしていた。ところがそこに、抗体を持っていて生き残った人間たちの暮らす街から、ダムの発電が再利用できないかと考えた数名が調査にやってくる。驚いたあまり人間のひとりが発砲して猿に怪我を負わせ、一触即発に。
だがダムを確認して電力を復活させたいだけだと熱心に語る今作の主人公にかつての人間への愛情を思い出したシーザーは、調査してできるだけ早く作業をして帰れと告げるのみで、実質的に人間を数名ながら受け容れる。早く帰ってもらうために人材(猿材)も提供する。
だが、人間側にも最初に発砲した男や血気盛んな者がおり、猿の側にもシーザーが穏健すぎて人間に優しすぎると反抗する気持ちが芽生え、双方がちょっとしたことからいつ喧嘩になってもおかしくないような状態になる。緊迫した数日のあいだに、猿側の幹部がクーデターを考え、実行に移そうとしていた。
電気が開通し、街にも猿の集落にも明かりがつくなか、気持ちが通じ合えたと思ったシーザーと人間たちのあいだを引き裂く銃声…。クーデターは起こった。
主人公とともに街をもり立ててきたリーダー格の男をゲイリー・オールドマンが演じている。この数年、ちょっといい役がつづいたりして「昔はあんなにやな役が似合ってたのに、イメチェンしたなぁ」と思っていたら、今回は合理主義で決断力がすべての、それでいてややお調子者の(ようするに政治家みたいな?)男を好演。いいぞいいぞ、日本でいえば小日向文世だな、穏健な役が多いかと思えばいきなり二丁拳銃を出す役がまわってきたりする、あの雰囲気である。
そしてまた、シーザーという猿がやたらかっこいい。顔が似ているわけではもちろんないのだが、真剣に物事を考えているときの雰囲気や立ち居振る舞いが東洋人の武闘家みたいだと思った瞬間から、ジェット・リーのイメージが抜けなくなってしまった。ジェット・リー、このところあまり見かけていないがお元気だろうか。
ともあれ、こんな駆け足の解説で猿の惑星シリーズが見たくなる人はいないかもしれないが、この最近のふたつだけは、ほんとうに損はないと思う。