たしか3月中旬か、彼岸のころだったはずだ。田舎の母から荷物を送った連絡として電話がかかってきて「子供のころ、あんこがはいっていない、きなこで食べる草餅が好きだったことを思い出したから、入れておいたよ」…という。
内心驚いたのだが、まさか「あんこの草餅だって好きだよ」などと即答するわけにもいかないので、ああそれはどうも、と言って受けとり、美味しくいただいた。
その後、たしかにきなこの草餅は好きだったと思い出したのだが、あんこの草餅が嫌いと言っただろうかと何度も考えて、ようやくわかった。わたしは粒あんが苦手だったのだ。いまにして思えば意味不明なのだが、こしあんでなければ食べたくなかった。そして当時の草餅であん入りといえば、売られているものも家で作るものも、粒あんが主流だった。
それでおそらく、母の記憶のなかで(あるいはわたしがそう伝えたのかもしれないが)、この子はきなこの草餅をよく食べる、ということなったのだろう。
粒あんが苦手だった理由は、よく思い出せない。
この何週間か、かつて嫌いだったベーグルが食べたくて仕方がない。いままで街のパン屋でよく買っていたのは、食パンとミルクフランスと蒸しパンで、ベーグルは見向きもしなかったし、専門店がデパ地下にあっても買おうと思ったことがまったくなかった。
嫌いになった理由は覚えている。まだ日本にベーグルが上陸したばかりのころ、話題になったのでわざわざデパ地下で買ったらマズかった(笑)。しかもわたしがマズいと思っているにもかかわらず「ベーグルはヘルシーで低カロリーで腹持ちがよく…」といった、ちょっと考えるとおかしい話が出まわってしまい(ぜったいカロリーが低いとかヘルシーということはなく、ごく普通にパンであるし、ヘルシーという勘違いのため1個をぺろっと食べてほかも食べたら、あきらかにカロリーオーバーである)、わたしとしては「あんなにマズいくせに勘違いでもてはやされて生意気だ」とまで、思うようになってしまった。
だがこの何年か、たまにベーグルを食べる機会があった。そして最近になってデパ地下のベーグルをまた食べた。けっこう美味だった。これならいままでの20年くらいを食べずにいた分、とりもどしてもいいかなと思った瞬間「どこに売っているかも知らない」ということに気づいて、愕然としたというわけだ。ネットで少し調べた。大きめのスーパーならジュノエスクベーグルを少しだけおいている場合もあると気づいた。よし、これから、適度に食べていこう。
ほかに子供のころあまり食べずにもったいなかったと思うものは、芹や野蒜(のびる——ただしわたしの田舎では「ののひろ」とか「ののひる」と呼ぶ人が多かった)、かき菜(これは「しんきり」と呼ばれていた)、そして山菜の多く。山がすぐ近くにあったので、近所の誰かしらが山にはいっては、いい山菜を採ってお裾分けしてくれたというのに、ありがたみをさほど感じていなかった。
これからは、いろいろな食材や食事を、大切に味わっていきたいと思う。