東京メトロの青山一丁目駅で、視覚障害者の男性が転落死した。各社の報道によれば、盲導犬は(おそらく点字ブロックの上に支柱などがはみだしていた関係で)転落の10メートルほど手前から、やや線路寄りを歩いていたらしい。男性は盲導犬よりさらに線路寄りを歩いていて転落した。駅員は白線の内側を歩くようにアナウンスしたそうだが、そもそも視覚障害の人に「どこが白線か」を示すには、駆け寄っていってすぐ近くで話しかける以外に注意喚起の方法はないだろうと思われる。駅員が遠ければ間に合わないし、ホームに人がいたとしても、その人に注意を払っていなければ、危険性が認識されない。
2016.08.16 東京新聞 → 盲導犬や白杖の人いたら声掛けて メトロ死亡事故で障害者団体
2016.08.16 NHK → 視覚障害の男性が転落して死亡 駅員が注意直後に転落か
いたましい事故だ。だがこれはいま、都内のあちこちの地下鉄駅ホームで耐震工事を名目に、健常者であっても歩くのがたいへんなほど狭い場所やいつもと違う道順を選ばなければいけない不自由さを強いられている現状を思えば、起こるべくして起こったようにも、考えられる。そして今回の件がはたして最後になるのかどうかと、暗いことを考えてしまいそうになる。
そもそも、点字ブロックの上に支柱の一部がかかっていた状態が何年つづいていたのかは不明だが、それを視覚などの障害を持つ当事者ら以外は大きな問題と考えず、放置してきたということだろう。人の目や、利便性を求める「経済優先」の目が、人に対してやさしくない。都会の地下鉄の駅で、夕方の6時に人が転落して亡くなったというのは、とても大きな事故であり、これからもずっと、大きな課題でありつづける。
(お亡くなりなられた方のご冥福を、心よりお祈り申し上げます)
さて、なぜ耐震工事があちこちで同時進行しているかといえば、少なくとも駅施設やホームに関しては、ホームのドアを付けるなどの作業に、従来のままでは強度が足りないということらしい。そして他の商業施設に関していえば、少なからず「オリンピック」が影響している。
どこにこれほど作業員確保のあてがあるのかと思えるほど、東京のあちこちが同時に工事していて、ほんとうに驚かされる。あっというまに、ついこのあいだ更地になったと記憶している場所に、家が建っていることがある。更地になったのも気づかずにいるタイミングでコインパーキングになっている例などは、いちいち挙げていられないほどの数にのぼる。それらのほとんどが「できれば2019年までに、ぎりぎりでも2020年前半に」という思いからなのだろうが、はたしてこんなにせわしなく東京をいじくり回して、大丈夫なのだろうか。オリンピックが無事に開催されたとしても、そのあとほぼ確実にはじけると予想されるバブルは、誰が面倒をみるのだろう。
福祉、生活、人々の安全に金を使う政治家であり行政を、人は願っている。暗い予感がともなうオリンピックよりも、多くの人が、これまでも現在もこれからも、ずっとそこにある日々の生活の改善を、切実に願っているはずなのに、誰がいったいそれを聞くのだろうか。