世の中はこれほど変わるのかと思うほど、すさまじい落差を感じている。日本では時差の関係で午後から夕方にかけて米国大統領選が報道されたが、アメリカ本土は4つある時間帯のほどどれにおいても、深夜だった。
その日、まずFacebookで知人らが悩んでいた。「子供が朝起きたら、なんて説明しよう」と。子供から「いじめっ子が大統領になるような世の中はないよね」と何度も聞かれ「大丈夫、大人はちゃんと考えて、それを阻止するから」と答えてきたのに、大統領になってしまった。どうしたらいいんだろう、と。別の人が「がんばったけれど、違う考えの大人がもう少しだけ多かったと答えるしかない」と、励ましていた。
つらいだろうなと思いつつ、それらを読んでいたわたしだが、事態はそんなことでは済まない状況になってきている。
わたしの知人には当然のことながら白人は多くなく、アジア系や有色人種が多い。実生活での不安や身の回りの危険すら感じている人も少なくない。ネット上で有名黒人女優の記事に「いつ荷造りするんだ」と平気でコメントをする人を見かけたが、そんなのは序の口で、赤の他人が路上で(見たからに白人以外のアメリカ人に対し)国へ帰るチケットは買ったのかと話しかける事例もあるという。移民は元いた国へ帰れという白人至上主義を唱えている人物が次期大統領に決まったため、支援者がまるで権力でも得たかのように徒党を組んでいるのだろう。
想像したことはないのだろうか。白人もまた移民でアメリカに来たのだ。ネイティブアメリカンにアメリカを明け渡してどこかに行けと言われたら、困るばかりでどうしようもないはずなのに、自分たちは人に対してそれが言えると思っている。親の代、祖父母の代からアメリカにいて国籍や市民権を持った人々が、見た目が白人以外なら「帰れ」と言われる、あるいはしつこくつきまとわれるとしたら、どれだけ恐ろしいことだろう。それが文明社会の人間がすることか。
経済の問題、政治の問題でトランプ次期大統領を語ろうとする人がほとんどだろうが、このままではアメリカは内側から壊れていく。国民の内部でこれだけ争いの種が顕在化し、しかも中心にいるのが次期大統領である。これでは争いはおさまらない。
1922年のニューヨークタイムズで、まださほど権力を握っていなかったころのヒトラーについて、「口で言うほどには反ユダヤ主義を徹底するとは思えない」といった、危険性を軽視する記事を書いていたことを知った( → http://www.snopes.com/1922-new-york-times-hitler/)。トランプ氏が次期大統領と決まって数日でさえ、これだけの不穏な騒動である。アメリカの内部でこれから白人至上主義が徹底された場合、かなり恐ろしく、そして大がかりなものになるはずだが、残念ながら日本の政治家は経済面でうまい汁を吸う方法にばかりご執心で、人道的な面にはまったく目が向いていないようである。