氏の名前を耳にして、どういった書籍名を思い浮かべるかは人それぞれと思うが、わたしはおそらく「臨死体験」以外に、最後まで読み終えた本がない。それが読み通した唯一のものであるため、氏について人物は語れないが、本はかなり印象深いものだった。厚い本で、処分した記憶はないので、家のどこかにまだあると思われる。
本の構成としては、かなりの分量を、臨死体験のインタビューに割いていた。そしてさまざまな考察を、これまたあちこちの書籍や著者インタビューなどを通じてつづっていた。読み手であるわたしは、頭にはいりやすい状態になったデータベースを文字で見せられているようで、「いったい何人で働いているのだろう(著者名は立花隆氏ではあるが、協力スタッフは何人いるのか)」など、氏の取材力と人脈とに、圧倒させられた。
80年代ころだったと思うが、日本ではやたらと「ユングとフロイト」が流行った。わたしも何冊か本を買って読んだ。小此木啓吾氏(フロイト研究)、河合隼雄氏(ユング研究)の本もかなり出版され、わたしはそれらも何冊か読んだと思う。いや、何冊かどころではなく、かなりはまっていた。とくにユング派とされる研究者の本(翻訳本)も、書店で見かければ購入していた。
その後、ユング関連本からは、少し遠ざかっていた。
2000年代はじめに、この「臨死体験」を読み、否応なしにその世界に引きずりもどされた。やはり心理学的な話とは切っても切れないものだからだ。
体験をした人々は、それまでその人たちが意識していなかったはずの、不思議なことを語りはじめる。それはご自分たちの意識していない深層心理、あるいは周辺の人々やコミュニティに語り継がれてきた、集合的な記憶によるものかもしれないが、なんらかの共通項があった。そしてその「不思議」を整理していくと、光るもの、飛ぶものなど、どこかUFOめいたも話も、混じってくる。
UFOだなんだといっても、著者はオカルトな流れに読者を安易に誘導するのではなく、体験者の住環境、年代、性別、宗教観などがさまざまな場合でも、話に何らかの共通項がある体験が語られるはなぜだろうと、またもや膨大な書籍や、体験事例を紹介していく。
読みやすい本だった。楽しめた。
20年近く前に読んだので記憶違いもあるかもしれないが、わたしにとって立花氏の「臨死体験」は、複雑であるはずのものを平たく可視化してもらった印象だった。
家の中を探すか、Kindleでまた買って読むか。ひさびさに読んでみたくなった。
(最後ではありますが、立花隆氏のご冥福をお祈りします)