昭和の昔の「疳の虫」

 何十年前だかわからないほど昔だが、日本のテレビ番組というのは、いまとは違うものを流していた。

 よく言われるのは、視聴年齢を分けていないドラマでの性(例:女性半裸は予告なく目の前に)、そんなに殴ったら相手が死ぬほどの激しい暴力シーン、さらに、どこにでも現れる喫煙描写だろう。だが、そういったものとはまた少し違う「昔ならでは」もあった気がする。

 たとえば子供でも見られる時間帯のテレビ番組で、人間の出産を(子供の頭が出てくる方向、つまり妊婦の股間から)見たことがある。教育目的の番組だったのか、どういった主旨だったかは覚えていない。けっこうな衝撃だった。
 茶の間に一緒にいた親はどうやら硬直していたらしいが、次の日にご近所の人たちが「昨日のテレビ番組、どうした、普通に見せちゃった?」、「うん、うちの子は真顔で見て驚いていた」などと立ち話をしていたので、やはりどこの家でも、多少は困ったことだったのだろう。
 一緒に親世代が見れば大丈夫という判断だったのだろうか。教育目的であったにせよ、現在なら普通の時間帯には放送しない気がする。

 また、心霊番組のようなものは昼も夜もたくさんやっていた。最近それが減ったのは、やはり社会的な歯止めと放映側の自主規制があるのだろう。

 そして、わたしがたまに思い出す「いったいあれは何だったのか」系のものが、これから書く「指から疳の虫が出てくる映像」だ。

 疳の虫(かんのむし)とは、実際に虫のような生き物がいるわけではなく便宜的にそう呼ばれるだけのはずだが、いらいらしている人の指先からそれを出すと(本人が)落ちつく、と考える人もいるらしい。その「疳の虫が出てくるところ」を、テレビでやっていた。どういった番組だったのかや、前後の脈絡は不明。

 わたしの記憶は、暗い場所を背景として、誰かの指先を大写しにしたものからはじまる。
 親指と人差し指だったのではと思うが、カメラの前でその指がゆっくり擦りあわされる。
 やがて、白っぽい、細い煙のようなものがそこから上にのびはじめる。糸のようにも見えるが、煙のようにも。なんだろうと思っていると、ナレーションがはいる。具体的には覚えていないが、意味としては「みなさん、これが疳の虫です」のような。

 いまも「疳の虫」で検索をすると、昔はこういう風に指先から出すことができる人もいたという話が載っている。だがわたしは子供心に「指にそんなもんいたら怖いじゃん、なにこれ」と、目が点になった。そしてそのころはテレビのCMで「宇津救命丸」というものも見ていたので「疳の虫に効くってテレビCMでやってるのは、そういう呼び名だけじゃなくて、こういう虫がほんとにいるということなのか」と、さらに驚愕。
 
 もっとも、わたしはそのあとで周囲の大人に「あれなに」と何度か尋ねた程度で、まともな返事をもらえないことから、やはりいないんだと決めることにした。そのほうが楽だし、気持ちが悪くないというものだ。

 だがあれから何度も何度も「あんなもんをテレビでやってたこと、そのものは、いいのか?」と、考えた。映像というのはかなりインパクトがある。子供のころに見たらなおさらだ。わたしは自分が気持ち悪くならなくて済むように「あれは嘘、あんなのいない」と決めてしまったが、逆に信じることにした人もいるかもしれない。

 これは実際には何でしょうねという問題提起だったのか、ただ「めずらしいでしょ」だったのかは、覚えていない。だが後者であるならば、見る層を制限した番組でやってほしいように思う(もし現在もそういったものをやっているならば)。

 積極的に地上波のテレビを見なくなって数年になるが、フィクションならフィクションと断る、宣伝なら宣伝と見る側にわからせるという徹底を、さらにお願いしたい。

 でも、まじであれは…なんだったんだろ…。

投稿者: mikimaru

2021年現在「バウムの書」、「お菓子屋さん応援サイトmikimarche」などのサイト運営に、力を入れています。 かつててのひら怪談というシリーズに参加していたアマチュア物書き、いちおう製菓衛生師の資格を持っています。 バウムクーヘン関連や、昔からの知人には、「ちぇり」もしくは 「ちぇり/mikimaru」を名乗っています。

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