14日は以前から予約してあった大腸検査の日だった。順調ならば午後2時くらいには病院を出て買い物をし、帰宅するつもりだったが、朝からついていない。けっきょく病院を出たのは4時半、帰宅は5時半ころだった。
顛末は、こうだ。
朝の9時に家で大腸洗浄剤を飲みはじめた。このところ数回連続で吐いてしまい、腸がきれいにならず、検査しながら水で洗ってもらうという面倒なことをお願いしていたので、今回はきっちり飲もうと、時間配分をゆっくりにして、できるだけ気持ちを追いつめないようにしながら、リラックス…していたつもりが、うまくいかず。
なんと、普通の人なら薬剤を最低は1リットル飲んでそのあと水またはお茶を飲むのだが、今回のわたしは600mlに到達した瞬間に胃が全力で拒否。もどしてしまった。洗浄剤と一緒に胃液もたくさん出て「えー、空腹でも胃液ってこんなに出るんだ」と妙なところに感心。
ただ、洗浄剤を飲みながらもあまりのまずさに途中で水も飲んでいたので、多少は水のせいでかさ増しされていた可能性もある。
ぜいぜいしながら、病院に電話。病院にたどり着くことはできるだろうが、こんなに少量しか飲んでいなくては腸がきれいになっているとは思えない。今回こそはと心の準備を整えていたというのにそれでも失敗したのが精神的につらく、なんだったらもう検査そのものをやめて家で寝ていたいと、そう告げるのもいいなと思っていた。
だが(吐く人というのは)それほどめずらしくないのか、あるいは検査そのものをキャンセルする人などいないと思ったのか、電話の向こうからは「病院には来られそうですか」との問いかけののち、当たり前のように「残りの薬剤と水またはお茶を持ってきてください、お気を付けて」と。
唖然とした。こんなにつらいのに、病院でまだこれを飲ませるつもりなのかと。
だが家に置いておいても捨てるのが面倒であるし、以前も「残っている薬剤を持ってきて」と言われたことがあるので、持っていくことそのものはかまわないと考え、出かけると伝えた。
それから出かける準備がたいへんで、ぜいぜいして、やはり行くのをやめたほうがいいのかとも考えたが、すると今度は「検査のあとに出してもらえるはずの今後の処方箋」やら「次の診察の予約をどうやってとるのか」やら、考えると頭がぐるぐるしてきて、これなら這ってでも出かけるかと、どうにか到着。大腸洗浄液と持参の茶が重く、ほんとうに「なんでこんな目に」と思ってしまった。
ようやく到着し「たいへんでしたね」と言ってくれたスタッフだったが、すぐさま洗浄液を飲むためのワゴンを持ってやってきたので「マジでこの人わたしに飲ませるつもりなのか」と、気持ちが引く。到着できるかどうかにも不安があったのだ。いまからでもキャンセルして帰りたい(それなら医師に頼んで処方薬と次回予約だけは取れる)と思った。だが先方も悪気があるわけではなく「気分が落ちつくまでは、洗浄液は飲まなくてもいいですが、水分をとって、腸の活動をうながしてみてください」という。これはいままでも言われたことで、結果として追加は飲めずに腸を洗ってもらいながら検査したのだが、今回はここまでつらい上に精神的にもぼろぼろで、目の前にワゴンがあるだけで泣きたくなる。
水分をとって院内を少し歩いてみると、腸が動いた。トイレに出かけてみると、飲んだ洗浄液の量が少なかったわりには腸がきれいになっているようだ。
だが以前にもそう思って「きれいになりました」と告げたのちに腸内の汚れがわかったことがあったので、今回もそうかもしれない。
もう1回、ごく少量だがきれいな液が出て「あんなに洗浄液が少なかったのに、きれいになったなんてことがあるのだろうか」と悩んだ。
その後、最初と同じスタッフの方が声をかけてくださって、いちおうその説明をした。やはり表情が「あんなに少なくしか飲んでいないのに、大丈夫か」と語っている。わたし自身も疑っているくらいだから、無理もない。
そして「次にトイレに行くときは、スタッフが液の色を確認できるように、声をかけてください」という。さらに、強制ではないが、やはりあと1杯くらい飲めると安心なんですがと言う。それは聞こえないふりをして、ワゴンも見ないように体の向きを変えて、その後はうつむいて過ごした。
それからが、たいへんだった。
もう1回くらいトイレに行けたら、色を見てもらえる(予約は早い時間だったので色を見たあとならすぐ検査に呼んでもらえる)と思ったのだが、自分の気持ちがもう限界で、動き回ることもできなかったこと、うつむいてばかりいたことで、腸は活動しなかった。
そしてスタッフの方々もわたしよりあとだった人たちを先に検査にまわして、さらに(あとから聞いた話だが)そのうちひとりふたりが時間のかかるポリープ切除をしていたこともあって、忙しくしていた。
そうして放置されているうちに「検査をやめて帰りたい」も、言えない状態になった。
タイミングを完全に逸して、それを言う相手もいなかったのだ。
泣きたくなってきて、ずっとうつむいていた。
すると、周囲がだいぶ減ってきたとき、最初のスタッフとは別の方が、わたしについて話しているのが聞こえてきたので、思い切って、「こんな時間になって申し上げるのも失礼かと思うんですが、検査をやめて帰りたいとか言ってもいいですか」と声をかけてみた。
わたしの顔色を見たのか、すぐさまその人の表情がいたわりに変化し、何でも話してよさそうだなと感じられたため「ほんとうは朝のうちにやめたかったけれど、来たほうがいいと思って、がんばって来てみた」、「この下剤のことを考えただけで気持ちが悪くて泣きたくなる」、「帰りたいと言えるタイミングがなくて、遅くなってすみません」と、すらすら、口から出てきた。
話を聞いてもらえて、なんだか気が抜けて、涙が出てきた。
すると、わたしの担当医がいま処置が終わっていないから話はできないけれど、少し待っていてもらえば、処方箋だけ持って帰るか、腸を洗いながら検査するか、その先生と相談ができますから、もうちょっとだけ待てますかと言ってもらえ…
けっきょく、医師の処置が終わらないため、いったん着替えませんかという話に。
検査をすることになればそのままできるし、やはり気分が悪いなら処方箋だけ持って家に帰れるようにしましょうと勧めらた。その後に医師が出てきて、丁寧に「嫌がることを無理にはしませんが、(持病があるからいつかは検査をしなければいけないですし)今日はせっかくここまで来たので、検査ができそうならしてみませんか」と、「気分が悪くなったら作業を途中でやめてもいいんです」と。
やってみることになった。
そこから先の手順は慣れている。もう何回も経験していることだ。それに、何よりも、検査台で横になっていられることがありがたかった。横になりたかった。
カメラを入れてみると、意外や意外、満点ということはないけれども腸はきれいになっていたことがわかり、検査もスムーズだった。いつもと同じくらいの時間か、あるいはもっと短くカメラが終わった。
その後、しばらく点滴をして様子を見てから帰宅。
午後2時ころに出られるはずだった病院から、わたしが出たのは4時半だった。
それでも、異常がなかったことで、この先また1〜2年のあいだは、やらなくて済む。
それに、次回は大腸洗浄剤を事前に相談して、変更できそうならしてみたい。今回の製品のように「袋を見ただけで味と香りが再現されて吐き気がくる」ものは、もう体調がどうのとかそういう問題ではなく、わたしに合わないのだろう。
今回は、最後に笑顔でみなさんにご挨拶できて、無事に帰宅できてよかった。
ただ、こういうときにつくづく思うのは「強く出られない性格」というものがあるということだ。担当医が「さっき検査した人は、腸内がドロドロで、時間もかかって、本人もたいへんだったでしょうが時間をかけてやりました。だから、自分(医師)としては、もし腸内がきれいでなくても、あなたが嫌でなければやります」と言ってくれた。
そして、検査が終わってから。
わたしが事前に「最後にトイレに行ったときは、たまたまかもしれないがきれいな液が出た。でも腸内はまだ汚れているかもしれない」と話したことを受けてだろうが、医師が「もっと自信を持っていいんですよ」と——。つまり、わたしが「もうきれいになりましたから検査をしてください」と言えば、順番を変えられることもなく、そのまま普通に検査して、帰宅できた可能性があったのかもしれない。だがわたしには、それは言えなかった。これは性格なのだろうと思う。
これでしばらく、やらずに済む。それだけは確かだ。