ある人物の名前を漢字で書くとどういうものであるかを、話していた。家の中だったので、おたがいに(出す気ならば紙とペンくらいはあったのだが面倒で)口頭である。
その人物の名前には「ツネ」がはいる。そのツネの字の話だ。
「こうじょうてきに、の、こうの字だね」
「こうせいとか、わくせいとかいうときの、こうせいのこう」
おわかりだろうか。正解は「恒」であるし、上の会話でもおたがいに同じことを言ってるのだが、おたがいの頭のなかにはたくさんの漢字候補が飛び交う。そしてどちらにもわかる漢字として、極めつけが出た。
「福田恆存(ふくだつねあり)のツネだね」
「そうそう」
実際には福田恆存は旧字体なのだが、わたしたちの世代が文庫本でお世話になっていたころは、略字体がけっこう使われていた。
こういうのが通じるとき「同じような環境で、同年代であるということ」が、どれほど気楽かがわかっておもしろい。