わたしの鉄板ネタなので、まさか書いていないとは思えないのだが——16年以上やっているこのブログでは、アップルパイの話題でインド人とセットのものは見つからなかった。それ以前のブログだったのか、あるいはここ以外の場所で書いたのだろうか。
30年以上も前の話である。晴海の国際見本市会場で通訳(というよりは現地での世話係のような)バイトがはいることがあり、その回はインド人ビジネスマンらの担当になって、1週間くらい行動を共にした。役割としてはインド人らが拠点にしているブースにいて、彼らの誰かが会場を見てまわっているときに他のメンバーが帰ってきたら伝言を伝えたり(当時は携帯電話は普及していなかった)、一般の人が来て資料を望んだらパンフレットなどを渡す、そしてメンバーの誰でも飲めるようにコーヒーメーカーにコーヒーを作っておく、という程度だ。
インド人らは他の国のブースよりも参加者が多く、ほかは3人程度が多いのに、入れ替わり立ち替わり10人以上が顔を出した。また、わたしの通っていた語学学校ではアメリカやニュージーランドの教師はいたが、インド英語に触れる機会がなかったので聞きとれず、何度も聞き返したりして時間がかかった。悪戦苦闘である。
そんなとき、インドのメンバーのうち中心人物である代表のひとりがわたしのところにやってきて、「さっきの、ブ(聞きとれない)だけど、名前は」と、真面目な顔でいう。「ブ」とは何だろうと考えていると、会場の設営と運営をしている会社の人で、1日1回程度は顔を出す日本人(イニシャル「オー」さん)が差し入れてくれたものらしい。その人が会場内にたくさんあったアートコーヒーのスタンドからインド人のみなさんに差し入れでアップルパイを持ってきたのは見ていたので「アップルパイのことか」と告げると、目を輝かせて、周囲に「アップルパイだそうだ」という。どうも「ブ」とは「ブレッド」と言っていたらしかった。
それがいったいどうしたのか、何事かと思っていると、聞いていたインド人らに念を押され「アップルパイだな、それはどこで売っている」、「あそこのコーヒースタンド、アートコーヒーって書いてあるところですよ」と、何度も答えた。
すると、食べてから1時間くらいだろうに、名前と売っている場所がわかったからと、誰かしらが買いに出かけて食べている。そうこうするうちにほかのメンバーが帰ってきて「それはなんだ」「アップルパイって言えば買えるんだ」「どこで」と、お裾分けでひとくち食べた人が、また追加を買いに行く。
なかには3回くらい食べた人もいたのではないかと、わたしはつい「あの、インドってアップルパイないんですか」と、声に出してしまった。ほおばっている最中のあるインド人が「ないけど、ドーナツはたくさんあるんだっ」と、言いながら食べつづけていた。
それ以来「インドってアップルパイないんだ、へ〜」と思っていたのだが、あれから30年以上。ネットで検索するとインド風アップルパイなるものがよく引っかかる。そうか、よく考えるとリンゴというのは寒い地方で栽培されることが多いので、あのときアップルパイを食べていた方々は南インドの地方からお越しだったのかもしれない。30年前だろうと、ないわけないよな、アップルパイ。
さて、1回分くらいの量のリンゴが余っているので、アップルパイかタルトタタンでも焼くとしよう。