なぜか今日、これを思い出したので、書いておくことにする。
30年以上前の話で、わたしが中学の3年くらいだったのではと、おぼろげに記憶している。
年が明けてからだったと思うが、担任(男性)が、わたしたちのクラス全員に打ち明け話をした。副担任(女性)がこのたび結婚したのだが、みんなの試験(おそらく高校受験?)の勉強や、学校で当時なにかややこしい問題があったことで、3月ころ発表する予定でいる、と。ただし本人はかなり「生徒みんなに隠し事するなんて」と、悩んでいる…とのこと。
そして担任は、何を思ったか、せっかくあっちがびびっているのだから先手を打って驚かせよう、と話をもちかけてきた。
担任の意見で、わたしともうひとりを代表ということにして「クラス費が3万円前後あるから、時計屋に出かけて柱時計を注文してこい」という話になった。役目を仰せつかり、わたしとKくんは時計屋へ。無事に注文を終えて、担任やみんなに報告。あとは3月を待つのみ。
そして迎えた日。前日から担任により「明日だ、いよいよ明日だ」と念を押されていたので、みんないつにもなく静かに副担任を迎える。副担任は、いまにも泣き出してしまいそうになりながら、でも「生徒たちはきっとびっくりするだろうから、わたしが泣いちゃいけない」という顔で、こらえながら「あの、みんな、あのね…」と、うるうる。
見ていて気の毒になるほどのうろたえ方だったので、こちらが気を遣い、たしか「結婚を…」くらいまでしか言わせなかったような気がする。「知ってるよー」「ほらこれプレゼントだよー」と時計を出すと、泣きながら、同時に、笑い出した。
柱時計は鹿を模したデザインで、アナログの針の周囲に鹿の角を差し込んで、全体が鹿の顔に見えるようなものだったが、副担任の女性は「これ、かわいい、これ、こうやって差すの?」と、泣き笑いしながら、角を触っていた。
ほんとうに人がびっくりするようなサプライズ企画は、あれがおそらく最初で最後だった。