フィニィの「盗まれた街」を原作とする映画「ボディ・スナッチャー」は、時代別に4作品ある。もちろん、これ以外にテレビ番組などの映像化は、複数存在するかもしれないが、わたしが把握している映画は、4本だ。
内容は、簡単に言ってしまえば、人々が眠っているあいだに植物のような何か(生命体)が体をのっとる。のっとられると感情の起伏がなくなり、空虚な会話しかできなくなる。その人々は仲間を増やそうとして、まだ普通の人間がいれば積極的に追いつめ、なんとか眠らせようとする。事実に気づいた主人公たちがどう立ち向かうか、という話だ。
先日、偶然にもケーブルテレビで56年版の作品を見た(後半のみ)。ラストに、驚きがあった。
何を驚くかといえば、わたしは78年版(ドナルド・サザーランド主演)をよく覚えていて、あのラストに絶望を感じたからだ。ところが56年版には、希望がある。国内で知恵をしぼればなんとかなるという、闘う強いアメリカ像を意識したラストだろうか。いっぽう78年版は、とんでもなく、そしてわくわくするほどトラウマな仕上がりである。
さらにわたしは93年版と、2007年のニコール・キッドマン主演「インベージョン」も見ている。前者は主人公らのいる場所が米軍基地であるため、徒歩で逃げまわる孤独感ではなく、ヘリなどの機動力があることを思えば、闘いや逃亡の可能性がひろがる。後者は、主人公が精神科医であり、生命体はウィルス感染という立場で描かれているため、あのお馴染みの繭のような物体は出てこなかった…と思う、たぶん。これは医学的な話として結末が描かれていたような記憶がある。
映画は、同じものを原作としていても、その時代に好まれる演出やエンディングになる。まさか56年版や78年版の最後を書いたからといって、いまさらネタバレで怒られることもないだろうが、いちおうネタバレ警告。
いちおう、注意。
56年版と78年版のネタバレ。
いちおう、注意。
56年版では、被害の著しかった一帯から主人公の男性が命からがら逃げ出して、いままさに全米に生命体が(トラックの荷台などに例の繭のようなサナギのようなものが大量に積まれて)送り出されていることを、警告したいと考える。彼は叫ぶ。何も知らずに車を走らせている一般ドライバーや、いろいろな人たちに叫ぶ。追っ手はすぐ手前まで迫っていたが、彼らは「どうせ信じるやつなんかいない、ほっとこう」と、帰っていく。
ところが、警察なのかFBIなのか組織名を忘れたが、彼は駆けこんで事情を説明する。最初は軽くあしらわれていたのだが、妙な物体を積んだトラックの目撃情報が出て、室内の状況は一変。各地に緊急配備を敷くというところで、終わるのだ。
78年版は、最後に逃げていたドナルド・サザーランド(24で有名なキーファー・サザーランドの父)と、知人女性役のヴェロニカ・カートライトが、いったん別々に避難して、また出会うところで終わる。女性が再会の喜びに「マシュー!」と、笑みを浮かべてサザーランドを呼ぶと、彼はのっとられていて、女性に向かって例の「シェーッ」みたいな奇声をあげるのだ。この、キーファーの父の「しぇーっ」が、なかなか頭にこびりつくのである(^^;。このあとの底なしの絶望を思うと、この映画の主役はヴェロニカと思って間違いない。
余談だが、ヴェロニカ・カートライトはこの映画のせいか、SFホラーには縁が深いようだ。90年代に一世を風靡したX-Filesでもシガレット・スモーキング・マンの妻としてたびたび登場し、宇宙人に人体実験されてしまった(夫がそれを承知で実験に差し出した)お気の毒な夫人を演じ、そして2007年版では、ニコール・キッドマンが異変に気づくきっかけとなる患者役として、前半を中心に出演している。
アメリカ映画は、平均的に、悪や暗闇に引きずりこまれて終わるとか、負けてしまって終わるといったものが少ない。だからこそ、78年版がいかに(わたしにとって)わくわくもので、貴重であるかということだ。ラストの絶望といえば、一作でやめておけばよかったのにシリーズ化した SAW (ソー、のこぎりの意)も秀逸だった。
絶望する映画を作れる時代というのは、ある程度は心に余裕がある時代なのかなと、そんな風に想像している。映画でくらい明るいラストでないと嫌だと、観客がそっぽを向く時代のほうが、もしかしたら均衡がとれていないのかも、心に余裕がないのかもと思えるのは、わたしが社会派ホラー(という単語があるかどうかは知らないが)が好きだからだろうか。
93年版は「実際問題として、機動力や数が状況を打破できるはず」という思いが感じられ、2007年版は、知性(医学や科学)に基づく適切な勇気ある判断が勝つという仕上がりだろう。どちらも、時代を映しているような気がする。
最後に、わたしはたしか、旅行に出た際にロンドンの書店で英語版の原作を買ったはずなのだが、そちらを読み終えた記憶がない。積んでしまって現在行方不明…。原作と歴代作品がどれくらい違うのかを見ておくのも、よいかと思うので、のちほど発掘作業を試みたい。