当たり前と思って使っている言葉がある。相手に通じていないことがある。はっきりと「それってこういう意味ですか」と口に出してもらえれば言い直せるが、そうでないと、通じ合っていないことに気づかないまま、日々が過ぎる。
自分は、だいたい「単語を知っている」ほうだと思っていた。だが以前に上記と逆の体験をしていたことに、一昨日やっと気づいた。
何年くらい前だっただろうか。5年は経っていると思うが、感じのよい皮膚科医(女性)がいて、わたしはその人に好感を抱いていた。その病院は、数名いる皮膚科医のうちひとりを1年で交代させてしまうので(おそらく若手の人を1年だけ担当させて大学にもどすなど、なんらかの意図があるのだろう)、わたしが通院する曜日はその若手の枠だったらしく、どんな人でも、1年でだいたいおつきあいが終わってしまった。もっとも、最近はじんましんの薬(アレグラ)をまとめて処方してもらう程度なので、1年に1回程度しか、もともと出かけないのだが——
さて、その医師に話をもどそう。
わたしに通じていると思っているのか、医師は診察のたびに、処方箋を書きながら「この薬は毎日飲んで、そしてこちらはトンニヨウの薬ということで…」と説明をする。トンニヨウがどんな字を書くのかわからなかった。でも意味としては、「トンニヨウですから症状がひどいときに飲むだけです」と言ってくれるので、症状がひどいときに飲む薬が、字がわからないけれどトンニヨウなんだなと、覚えた。
のちほど、担当はその医師ではなくなった。当時どんなにか悩んで「トンニヨウってどんな字を書くんだろう」と考えたかわからないほどだったが、その言葉を発する人がいなくなったため、その言葉そのものを忘れて数年。
一昨日、ショートステイサービスの書類に記入していて「通常の薬のほか、とん用の薬があるかないか」という欄があった。「とん用ってなんだろう」という話になって、念のために検索したら、症状が出たときに飲む薬、とかかれていた。
5年くらい前の、あの医師を思い出した。わたしにわかるように、ゆっくり大きな声で「と・ん・よ・う」と発音してくれていたのだろうか。それがわたしには、ゆっくりはっきり言われているとは思えず、くっつけて「トンニヨウ」と聞こえていた?
謎が解けたいまとなっては笑い話だが、そういうことだったのだ。
たとえば小学生に「イチゴやトマトは、野菜とくだもの、どちらのハンチュウにはいると思いますか」と、大きな声でゆっくり訪ねても、小学生は範疇という漢字でものを考えず、音からはいるのだから「ハンチュウってなんだろう」ということに、なるに違いない。同じことだ。医師にとってわたしは、ゆっくり言えばだいたい通じるだろうと考える範囲内にいたのだろうが、残念ながらわたしはそこにいなかった。
自分が相手にとってわかりやすい言葉を使っているかどうか、各人が少し想像力を働かせていくことで、コミュニケーションはよりよいものになるのだろう。わたしもトンニヨウの件を忘れないようにして、今後も文章を書いていきたい。
あ〜そうか。頓服の別の言い方なんですね。
そうなんです。処方される薬の袋には「とん服」と書いてあるし、それなら意味もわかったんですが、先日の書類といい、「とん用」という表現があることに気づかなかったので、何年もかかってしまいました(^^)。