デンマークを中心に活躍し、近年ではアメリカのドラマ「ハンニバル」のシリーズに主演しているマッツ・ミケルセン。ハンニバルでのどうしようもない悪党ぶりは堂々たるものだが、ほかの作品を見ていると、けっこうかわいそうな役柄も。
数ヶ月前に映画館で見た「悪党に粛正を」は、兵士の暮らしを捨てて新天地アメリカに兄とともにやってきた男が、7年の歳月をかけてようやく生活を軌道に乗せ、デンマークから妻子を呼び寄せたと思ったらその晩のうちにふたりが惨殺される…という展開。いったんは、こんな夢も希望もなくなった場所にこれ以上しがみつけるかと、兄とともにふたたび引っ越しを考えるのだが、理不尽な出来事がつぎつぎに起こる。そしてついに、彼はぶち切れる。同じく元兵士の兄とふたり、アメリカにて狩猟で身を立ててきた主人公、まったく銃の腕はぶれていないのであった…。。。
そして、先日オンラインデマンドで見た「偽りなき者」だが、これがまた、恐ろしい映画なのだ。
彼は今回は(肉体的な意味では)戦わない。だが理不尽な村八分に遭う。きっかけは、家族ぐるみのつきあいをしている気心の知れた少女が発した言葉。周囲がそれを深刻な性的虐待として受け止め、本人の言い分はまったく聞かずに、同じ幼稚園の子供たちに「何もされていないか」と誘導尋問のような問いかけをおこなう。子供たちはありもしない話を(おとぎ話のように創作して)語りはじめ、いよいよ周囲は、勝手にあれこれ思いこむ。騒ぎになったことで、発端となった少女が「何もされていない」と弱々しく言うが、もう親たちは「あなたは忘れようとして混乱しているだけ、でも、もうほんとうに忘れていいからね」と、とりあわない。
怖いな、ありそうだな、これはと…恐ろしさに体が震えた。
ヨーロッパの地方都市で、代々ずっと同じ家に人が住むような場所であるからこそ、いったん村八分になったらたいへんなのだが、主人公を子供のころから知っている人間たちも多いだけに、信頼をとりもどせるのかどうか、そのあたりの流れがどちらに向かうのか、まったく読めなかった。
とにかく最後で「ああ、やっぱり…」と思ったことだけは、書いておくとしよう。
かなり怖い話である。
そういえばわたしが80年代からしつこく何回も見つづけてきた「エルム街の悪夢」シリーズだが、あれも「ほんとうにフレディはどうしようもなくひどいやつだったのか」が、何話もあるストーリーをひとつひとつ見ていくと、その展開においては、印象がぶれてくる。なにせ第一話では「釈放されたのが許せなくて親たちが集団リンチで殺した」というのがあきらかになる場面もある。もしリンチした側が勝手な印象で「手続きの問題くらいで釈放してしまって」と考えただけで、実際には嫌疑が薄かったから様子見の釈放だったのだ可能性もある。もはやフレディがどの程度のワルだったのかは、殺されてしまったあとでは、立証が難しい。
まあ、プロデューサーが変わったり、監督や脚本が変わりながらつづいたシリーズなのだから、多少はフレディ像がぶれてしまうのも、仕方なかったのかもしれないが。
個人的には、1話、3話、4話、5話が好みで、実質的に7話目にあたる「ザ・リアル・ナイトメア」は別格。
ちなみに1話は、中盤まで主人公と行動をともにする男の子として、まだ駆け出しのジョニー・デップが出ている。