家族内の呼び名や親戚づきあいなどの単語は、日本語と英語でだいぶ異なる。たとえば日本語は関係が姉と弟でも音としては「きょうだい」で文字は姉弟、姉と妹でも「きょうだい」だが文字は姉妹と表現する。もっとも後者に関しては、音として「しまい」という単語で語る人もいるかもしれないが、多くの場合は「きょうだい」ではないかと推測している。
sister / brother (女のきょうだい、男のきょうだい)については、上下がわからなくても姉か妹か、兄か弟かを、できるかぎり当てはめないと日本語になりにくい。時間に余裕があれば調べるが、通訳のようにその場で口頭で処理しなければならない場合は、まさか本人に「どっち」と確認するわけにはいかないだろうから、苦労があるはず。訳すときに「姉もしくは妹」などと不自然に訳してでも、会話している当事者同士でそのあたりを掘り下げてもらって、通訳は自分ではあいだにはいらないこと(黒子に徹する)が重要ではないかと思う——もちろんプロ通訳ではなく友達間のちょっとした会話を取り持つくらいの立場なら、こんな難しい話は不要だが。
さて、今日ちょっとのけぞってしまったのが、grandparentの訳し方。parentだけなら「親」がある。grandparentに該当する単語がない。grandparentsと複数形になっていれば祖父母だが、単数形になっている場合、祖父または祖母とするしかない。あるいは顰蹙を買うのを承知で新単語を造り「祖親(←こんな日本語はないが)」で押し通すしか。
おかしなもので、子供や孫などのように「性別も単複も曖昧なまま使える単語がある」というのに、単数形のgrandparentがそのままには訳せない。だが今後は、たとえば同性婚やいろいろな「いままであまり一般的ではなかった家族構成」が増えてくるはずなので、性別として中立的な単語が求められてくる機会はこれまでの比ではなくなるだろう。そのとき、言葉(もしくは世間一般の話者の思い)は、ついてこられるのだろうか。
ところで英語のcousinは、日本語の「いとこ」よりもはるかに意味が広い。いとこの意味でも使うのだが、続柄がちょっと複雑になって誰それさんの誰それという関係がすぐには出てこないような間柄で、かつそれほど年齢差のなさそうな範囲にいる親戚について、ほとんどすべてcousinで表現する事例をわたしは知っている。
family / relative / cousin など、簡単そうに見える単語でも使われている背景や話者の思惑が同じとはかぎらないので、気分に余裕がある人は、注意をはらってみると、おもしろいかと思う。