検索したところ88年らしいのだが、ワーキングガールという映画があった。主人公のテスは会社で認められようとしてビジネス関係のさまざまな夜学コースに通っている。ところがある日、嫌なことがあり、授業を休んで家にもどると——テスは留守であると考えた恋人が、別の女とベッドにいた。
そのとき、恋人役のアレック・ボールドウィンが言うのである。大あわてで、服も着ていない状況なのにどこをどう勘違いしたらそんなことが言えるのか、まったくわからないが—— “Tess, it’s not what it looks like.” (そう見えるかもしれないけど、そうじゃないんだ)
当然、ドン引きである。メラニー・グリフィス演じるテスは、ますます仕事に生きることになる。
さて、この台詞はずっとわたしの頭の中に残っていて、忘れたことはなかったが、つい先日に意外な場所で思い出すことになった。日本の映画「よこがお」で、筒井真理子が演じる女性が、3回くらい言うのである。「違うんです」と。
だが、どこも違っていないのだ。彼女が訪問看護をおこなっていた家で事件があり、容疑者は彼女にとってまったく意外な人物だった。その人物との関係を知る人はほとんどいないため、なかなか自分から口に出せずにいるうち、話さない方がいいと言ってくれた、仲間だと思っていた人物が、盛大にばらしてしまう。彼女の生活は一変する。
そして、周囲から問い詰められるとき「違うんです」と彼女は言う。
これが、わたしとしてはツボだった。
相手が尋ねてきた内容(容疑者との関係はという質問)だけを考えると、どこも違わないのだが。
かつて、こういう会話はたしかにあったような気がする。聞かれていることそのものにではなく、相手が何を聞いているのか、尋ねられていることに返事をするよりも「背景にはいろいろ事情があって」のような匂わせ方をしたいとき、とりあえず「違うんです」と答える人。
これをもし英訳しようと思ったら “It’s not what it sounds like.” となるのかもしれない。
ワーキングガールから30年を経過して、なんだかいろいろ思い出してしまった。