悪魔の赤ちゃんという1974年のアメリカ映画がある。ジャンルはいちおうホラーなのだろうか。原題は It’s Alive (生きている)であり、生まれた直後の赤ん坊が大量に人を殺して回るという話だ。
子供のころにテレビで放送されていて、なにかがとても印象に残っていたため、その「なにか」が何だったのかを知るためにU-Nextで見てみたのだが、かえって謎が深まってしまった( → U-Next 「悪魔の赤ちゃん」
)
以下、ストーリーの大筋。
11歳の息子がいる平和な上流家庭が舞台。ひさしぶりに子供を持つことになった夫妻が、陣痛が来たので夜間に病院を訪れるところから物語がはじまる。息子は知人宅に預け、数日間はその家から学校に行くなどの世話を頼むことに。
やがて病院に到着するが、妻の体調が思わしくない。分娩室にはいる前から「前回と違う」をくり返し、「痛みがひどい」と不安を口にする。やがて分娩のため医師やスタッフに囲まれるが、痛みを訴えつづける。医師は「大きなお子さんのようで、4〜5キロあります。引っぱります」とのこと。
その後、スタッフ全員が惨殺されてしまう。駆けつけるが唖然とする夫。生きているのは妻のみだが、おそらく麻酔かなにかの影響で目撃していないらしく、うろたえている。
妻は「わたしの子はどこ」と叫びつづける。姿の見えない自分の子が誘拐されたものと考えた夫だが、やってきた警察官らは「逃げ去った天井の穴の大きさなどから、子供が全員を殺してそのまま逃げたと考えるのが妥当」と判断。そんなばかなと思う登場人物は作品内には誰もいなかったようで、あっというまにその話は地元メディアに伝えられ、世間の知るところとなってしまった。
子供を預けている知人がテレビもラジオも遠ざけてくれて、まだ何も知らずに過ごす上の子供。だが夫妻には情報を得ようとやってくる人間があり、さらには今回の件と関係があるらしい製薬会社(妻は薬をずっと飲んでいた)も登場。子供の身柄を自分たちに渡すよう、書類にサインを求める。
そうこうするあいだも新生児は界隈で殺しまくるが、早くから夫妻の家を突き止めていて、こっそり自分の母にも接触を図る——
見終わっただ、なぜこの映画が記憶に残っていたのかは、よくわからなかった。
謎のままで終わったこと。
○ その子供は、人を殺してどうするのか(襲って喉のあたりに傷を付けているが、別に食っているわけではない)
○ 生後1日で実家を突き止め両親の顔を認識しているが、とてつもなく知的なのではないか。いったいどういう薬の作用でこんなに頭のよい子が生まれるのか。
○ その新生児の父親は感情をほぼ顔に出さない演出で、生まれてくるのを楽しみにしていたはずなのに自分の子供が大勢を殺していると言われて疑問を呈すでもかばうでもなく、ふてくされているかのような表情。その子供が殺されても仕方ないと考えているような言動もある。だが中盤以降でいきなり(ほんとうにいきなり)子供に愛情を感じたようなシーンがあった——というのに、さらに最後の最後で、予想外なことをする。
この映画が作られた70年代は、まだ60年代に世を騒がせたサリドマイドの薬害事件を記憶する人が多く、こんなに曖昧な設定でも「薬を飲んでいた」だけで人がなんとなく察してくれるという考えがあったのかもしれないが、それにしても、説明が足らなすぎるように思う。
だがわたしがこの話をすると、映画を見ていない家族は「B級だから、そこまで考えなくてよいのでは」とのことだった。そうなのかもしれないが、何やら釈然としない。