以前にどこかで書いたかもしれないが、東京にひとり暮らしをするようになって、初めて夜中に妙なものが見えたときのことだ。おそらく疲れて寝ぼけて頭が混乱していたのだろう。そのときは「出た、ついにすごいものを見た」と興奮したり畏怖を感じたりとにかく忙しかったのだが、その「見えた」ものは……いまから思うとぜんぜんすごくない「うっすら毛の生えたヘビの頭」だったのだ。
どう考えても、ぬいぐるみみたいなものでしかないだろうが、そのときはなぜか「すごい、ついに見た」だった。
それが布団のすぐ近くで、こちらを凝視するでもなく、斜め方向(要するにわたしとは関係のない方向)を見ていた。まるで「ほらデッサンするなら早くして」という雰囲気であった。しばらく見ていたが、わたしは寝てしまった。
頭の部分だけだったのだから、別にヘビと思わなくてもよかったはずだが(うしろがどうなっているかわからないのだから、何の生き物を連想してもよかったはず)、とにかくわたしはそのとき、それをヘビだと考えた。
あれからもときどきそのヘビを思い出すのだが——。今年になって、いくつかのヘビ関連グッズ販売サイトで、ヘビのドアップがカレンダーになっているのを見てなつかしくなった。カレンダーになるだけあって、どのモデルもあのときのヘビより立派なものが多い。もしこれらにうっすら体毛があったとしても、あのときのヘビよりは美しいというか、堂々としているように感じる。
なぜあのとき見たヘビに、体毛があったのか。
実はわたしはヘビが苦手ではない。ヘビの図鑑を見るのが好きで、動物図鑑はヘビのページを集中してみていた。そのため、生々しい見た目のものが夢に出たことも複数回ある。だが、あのときは体毛があった。
恐竜も鳥のように毛があったのではという説があるそうだが、もし現在のヘビに毛が生えていたら、愛らしい路線で生きる道もあっただろうし、もしかすると毛皮を目当てに乱獲されていたかもしれないし、また違った意味での注目を浴びていたのだろうな。