コーヒーの木は鉢を大きくしてしまうと巨大になってしまうので(1メートルは楽に超えるらしい)、この数年は同じ鉢のまま、いったん抜いて根をほぐして土を足す作業をしている。根はほぐしながら少し捨てるし、土も改良材を少しと新しい土を混ぜながら従来の土に足すので、それほど手間も費用もかからない。
6鉢あるのでひとつずつ順番に作業をしていたが、ひとつだけ「鉢から抜けないほど根が張っている」ものがあり、あせった。この鉢だけ長い年数を放置したのだろうか。仕方ないので鉢の内側に指を入れ、空気を入れるように一周ぐるりとなぞり、それでもだめなら二周、三周とやっているうちにようやく抜けた。鉢が小さいのかもしれないが上述の理由により大きくすることをあきらめ、根を多めに捨てて土を足した。
たった6鉢の簡易作業なのに、それから半日、ずっと家の中が「雨が強くたたいたあとの地面の匂い」(ペトリコール)に満たされている。明日くらいには消えるだろう。
さて、思いがけない発見があった。
わたしは6鉢のコーヒーの木に、極ミニの苗のころから名前(記号)を付けていたのだが、前回の作業後に、ある鉢からその名札が消えてしまった。周囲に落ちているのかもしれないときょろきょろしたが見あたらない。だが名前は(ほかの5鉢に残っているので)わかるからと、これ以上をなくさないようにしようと考えていた。
ところが今日、鉢から引っこ抜いて根をほぐそうと、抜いたあとの植木鉢を見たとき、残った土の中にその名札が落ちていた。前回の作業で作業後に刺すはずの名札を、鉢の中に入れてしまっていたのだ。素材が薄くて柔軟性のあるプラスチックだったので、割れることもなくそのままはいっていたのだろう。
また6鉢に名札がもどった。
コーヒーの木たちが家にやってきたのは2012年の7月だった。当時は珈琲カップよりも小さな容器に細い苗が3本ずつはいって2セットが到着し、「どれかは育たないということで余分に入れてくれたのかな」と思いながら、6本を大事に育ててきた。大きさを気にせず育てて日当たりに気をつけていれば、もしかしたらもうコーヒーが収穫できていたのかもしれないが、終の棲家が見つかるまでは借家で巨大な鉢が6個あっては困るため、こぢんまりと育てている。まだ花が咲いたこともないので、実がなるのは何年先か不明だ。