田舎の親と話をしていると、聞いているだけでわかる程度に塩分が心配である。それなのに本人には自覚がないらしい。食べたいものやら好きなもの、今日は何を食べたというのを聞いていると、電話とは思えないほど具体的に、目の前に塩の影がちらつく。
数十年前まで日本の食卓は米飯と塩っぱいおかずだらけだった。戦後まもなくのころの食事関連資料を見ていたら、1日に(ひとりあたり)茶碗に9杯の米飯が書かれていて驚いたこともある。あきらかにカロリー過多であり、栄養も偏ってしまうだけでなく、糖尿病になりやすい献立だ。——そうはいっても、そのころから近年にかけて寿命が延びつづけていたのは、働き世代はめちゃくちゃ体を使っていたからである。洗濯機が一般の家庭に普及する前は各家庭に「洗濯板」やら、絞るための器具(棒と棒のあいだに濡れた布を通してローラーのように潰しながら通す)というものがあったのだ。
この数十年で事務職が増え、家庭には家電があふれ、一般人が1日のうち体をつかってへとへとになる種類の労働や雑務は、激減していることになる。
だがわが親はそんなことには無頓着である。ときおりデイサービスや医療の関係者に「塩分に気をつけていますよね」やら「今日はなぜでしょうか、血圧が高いですね」と言われても、自分の食べたいもの、食べているものが体に悪いはずはないという強固な思い込みがあるらしい。「なんでだろう」とわたしに告げたその数分後、白いごはんに梅干しをちぎって「塩をまぶして」おにぎりにして食べたと告げる。いや、梅干しの塩分すごいから、塩をまぶさなくていいからとわたしが言うと驚いて、そして笑い出した。考えたこともなかったらしい。
塩気のあるものはやめられないのだろうが、ほどほどにしてもらいたいものだ。