思春期に筒井康隆作品をよく読んでいた。氏の作品としては例外中の例外「時をかける少女」などの普通路線ではなく、割合としては圧倒的に多いエログロ倒錯なんでもあり系を、片っ端から読んでいた。
で、急に思い出したのである。「おれの血は他人の血」で出てきた、主人公男性の決め台詞のイタリア語はなんだったっけ、と。
50年以上前の作品になのでネタバレしてしまってもご容赦いただけると思うが——幼いころに主人公の少年は、イタリアのすごいマフィアのボスがなぜか日本滞在中に大けがをした際、同じ病院に入院していた。そして本人は知らぬまま、(どちらかを助けるならマフィアより地元の少年という医師の判断だったのか)、その血をそっくり全身にもらい受けていた。
少年から青年、そして社会人になっても、ぶち切れることがあると主人公はイタリア語を叫んで前後不覚に陥り、気づいたときには、周囲がそっくりなぎ倒されているのである。自分への恐怖を感じ、またもやそんなことに陥る前にと、語学に詳しそうな人にその言葉を尋ねると、イタリア語で「くそ!!」だったとわかる。それが「エスクレメントォ!!」である。スペルではEscremento らしいが、これはラテン語やスペイン語の場合はスペルが異なり、英語でも excrement という具合に x がはいる。その場合は発音も「エクスクレメント」となる。筒井作品ではイタリア風だったようなおぼろげな記憶があり、エクスクレメントではなく、エスクレメントだったのかなと思うが、当時からの同じ本を手元に置いているわけではないので確認はとれない。
ただ、映画作品を見た人のブログ等では、エスクレメントと紹介されているようだ。
筒井康隆といえば、七瀬三部作や、そして知る人ぞ知るインパクト最大級の短編「池猫」で知られるが、中学高校のころにこれらを読んでいたおかげか。わたしはすっかり世の中をまっすぐに歩けない大人になった(←別に恨んではいないが、かなり影響を受けたのは確か)。
読んだのは40年以上前だろうから、いまになってネット検索でイタリア語の「くそ」を確認のため検索する羽目になったのは、筒井康隆なる人物の偉大さかもしれない(……いや、偉大なのか……うむむ、影響力の大きさとしておくにとどめよう)。