あいかわらずKindle Unlimitedで実話怪談ばかり読んでいる。おもしろい。
怪談はもともと好きで、10年以上前にBK1というオンライン書店が主催しポプラ社が書籍化していた「てのひら怪談」というシリーズにも参加していた。だがぶっちゃけた話が、人間関係の怖さというものや、暗い方向に行ってしまった人間の心理などを山ほど知っている人間にしてみれば、何かあったときに「祟りだ」とか「幽霊っ!?」とは、思わないというか、思えないものなのである。
20年以上も前の、ロンドンでの話。
古いホテルに泊まった。歴史はありそうだが中は古くてまったくバリアフリーではないため(段差はデフォルトだし通路も妙だったので増改築が多かったのかと推測)、値段は手頃だったのだろう。往復の便とホテルなどが決まっているだけの自由プランで出かけたが、それほど高くなかった。
そのホテルだが、4〜5日くらいいたあいだに、室内の灯りやらベッド脇の電気スタンドやら、ひとつずつプチプチと切れていくのである。外出中の昼間に故障していくのであれば帰ってきたときに不便だし気持ちとしても落ちこむが、自分たちが夜に室内にいた目の前でプチッと切れたものもあった。「老朽化だね」、「別に日本のホテルみたいにガンガンに明るくしていなくても、いいよね」と、いちいち騒がずに日々を過ごしていた。
だがそろそろ次の場所に移動というころになって、ついに、部屋の灯りで無事なものがひとつもなくなってしまった。
さすがにそれでは不便なので、フロントの人に話すと駆けつけてきて「ほんとだ、つかない。なぜ、なぜ」と驚いている。こちらも面倒だったので「1日1個ずつ壊れていったんですよ」などと言わずにいたところ、相手の決断は早く、「隣が空いているはずなのでフロントで鍵を取ってきます、そのあいだ荷物をまとめてください」とのこと。
そそくさと荷物をまとめて、隣の部屋に移動して、そこで最後の晩を過ごすことができた。
…これ、老朽化だとか、あれこれ思わずに「ぎゃーっ、灯りがまた消えた」、「ついに最後のひとつまでも!!」と、話を盛って階段風に仕上げることもできるかもしれないが、こちらにしてみれば「あー、隣が空いててよかった」である。
チャールズ・ディケンズとかいう名前のホテルだったような気がするが、まだあるのかな。