子供のころ読んでいた、松谷みよ子の本「むかしむかし」に、はなたれ小僧の話があった。普通の暮らしをしていた男に、ある女性(たぶん女神さまとかそういう感じの)が、はなたれ小僧を預ける。「この子はエビナマズが好きなので、川で取ってきて食べさせてください」という。その代わり、いいことがあるらしい。
男がエビナマズ(わたしはそういう生き物がいるのだと思っていた)を取ってきて食べさせているあいだは、小僧さんは鼻をかむ音とともに、願い事を聞いてくれた。だがカネや物品が揃ってきて気持ちが贅沢になってくると、男はエビナマズ(どんな生き物だろうかとわたしはワクワクしていた)を取りに行くのが面倒になり、小僧さんに「帰ってけっこうです」と告げてしまう。すると小僧さんが鼻をすすり、そこにあった贅沢な暮らしはすべて消え去って、もとの家にもどってしまった、というもの。
数十年して、わたしは「エビナマズとはどんな生き物だろう、どこの方言だろう」と検索。
すると、どうも、エビナマズではなかったようだ。信じられない思いで検索をくり返したが、やはり「エビなます」らしい。エビをとってきて、なますにして出すということのようだ。なんということだろう。漠然と頭の中にいだいてきた幻の生き物「エビナマズ」は、こうして消えてしまった。
せめてAIにエビナマズの絵でも作ってもらおうかと、考え中。