「おなめ」なるもの

 何年くらい前だっただろうか。だんだんと自分で買い物に行く回数が減り、体を動かして調理することも減ってきた実母が「おなめが食べたい」と、しみじみ言った。そんなに食べたいのならと、発酵食品のオタを自認するわたしはネットで調べ、麦麹を取り寄せ、自分なりに「きっとこれがおなめだ」と思うものを作って送った。

 自分では味見をしていないし、かりに味見をしたところでわたしは本来の味を知らないのだが、相手は発酵食品である。手違いをして腐らせることがないかぎりは美味なものができたのだろうと勝手に考えている。

 それから何週間かして電話すると「とっくに食べ終えてしまった」とのことで、それからしばらくのあいだは、年に数回のタイミングで、ある程度の量をまとめて送っていた。

 ただ、新鮮な状態で少しずつ買って食べるわけではなく、まとめて作った発酵食品なので量が多ければ最後のほうは味が変化してくる。食べるのがたいへんだろうなと、かといって少量ずつ作るのはたいへんなので、しばらくその作業から遠のいていた。そしてこの数年は、わたしが素地(材料を混ぜて数日だけ発酵させたもの)を送って親が好きな具を混ぜてから数日かけて仕上げる作業がたいへんらしく、わたしはまったく作っていなかった。

 夏以降に体調を崩して、10月にはそれこそ「もうだめかな」と覚悟したほど声が弱々しかった母が回復し、ひさびさに「おなめが食べたい」という。その代わり、仕上げの作業ができないので、ある程度まで発酵が終わったところまでわたしが面倒を見てから送ってくれとのこと。
 そこで、いつもなら仕込んで数日で宅配便で送るところを、今回は長めの日数をかけて材料がしっとりするところまで寝かせ、母がこれまで「刻んで日向に干しておいたナスを混ぜてから寝かせて食べていた」というので、ナスをスライスしてから弱く電子レンジにかけ、しんなりさせたものを一緒に送るという話に。

 そして金曜日の夕方「どうしようか、ナスを混ぜて寝かせてから送ろうか」と尋ねると、食べたくて食べたくてたまらなかったらしく、ナスは自分で混ぜるから早く送ってこいという話に。そこで電話を切ってすぐに荷物を作って近所のクロネコまで。いつ送ろうかと思っていたが、話が進んであっという間に送ることができ、こちらも気が楽になった。

 2019年に、食べ物関連の旧ブログに配合を書いていたので、ご関心のある方はそちらをご覧いただきたい。
http://taberuhibi.sblo.jp/article/185726878.html
 これくらいの量であれば、大豆は煮てある商品を買ったほうが楽。今回は買ったものを使用した。

粽(ちまき)の思い出話

 今日は冷凍食品の粽を食べたのだが、鶏肉などがごろごろはいった本格的な中華風のもので、なかなか美味だった。

 メーカーは違うと思うが、楽天から画像を。

 そして粽を食べながら、もう30年近くも前になるかと思うが、ある外国人男性のことを思い出した。

 当時はインターネットというのは黎明期で、パソコン通信をしていた人たちが少しずつインターネットに流れたり、同好の士でメーリングリストなどに集まって情報交換をしていた時期だった。もちろんウェブサイト(当時は個人が作るものは1ページから数ページ程度の分量で、いわゆる「ホームページ」だった)も数が少なかった。

 そんなとき、配偶者が日本人もしくは日本に縁者がいるという外国人男性が、自分が食べたことがある○○粽(○○には地方名か何かがはいっていた)について聞いて回っているという話が聞こえてきた。わたしのメルアドもその人に回しておいたのでそのうちメールが行くだろうという。
 誰に答えてもらってもわからなかった内容というのは、いったいどんな粽なのだろうと、不思議に思った。たとえばただの広い意味での「粽」ならば、料理としての中国風の粽や、軽食やお菓子のようにもとらえられる日本風の粽いろいろあるので聞きながら話を絞りこめばいいわけだが、そんなに何人も聞いて回るほどすごい内容なのか、と。
(粽の種類や歴史については → Wikipedia:ちまき をご参照いただきたい)

 ところが、その男性からメールがやってきて、わたしが上記のように「確認ですが、これこれこんな感じの食べ物ですね」と絞りこみをおこなおうとしたところ、やりとりはあっけなく終わってしまった。メールが来なくなったのだ。いったい何なのかと思ったが、こちらから再度メールをする意味もないので忘れかけていた。

 それから約1週間後。
 わたしが出入りしていた食べ物関係のメーリングリストに、誰かからの紹介ということで、その男性が英語で参加した。メーリングリストの参加者は学生が少なく社会人かそれ以上の年齢が中心で、もともと外国語にも関心がある方々だったので、みなさん親切にしてあげようとしたのだが……わたしはうかつにも、ちょっとぶち切れそうになってしまった。

 内容が、わたしも含めていろいろな人(わたしをその人に紹介した方々)に見せたままのもので、しかも「この粽について知っているかと日本人に多く尋ねたが、みんなI have no idea.(わからない)と答えたのだ」と添えてあった。

 そのときにやっとわかったのだが、つまりその人は全般的な解説や細かい説明などは不要で、そういう名称での粽を知っているかどうか、知っているならその粽の作り方または食べられる場所の情報をもらいたい、というだけの意図だった。こちらへのメールにろくに返事をせず次の人に尋ねて、のちにはメーリングリストにやってきて、直球の回答だけを求めていたという、まったく態度がブレない人だったことになる。

 だがその「わからない」と書かれた人たちのうち何割かは、わたしも含めてそのメーリングリストにいたことを、その人物は知らなかったのだろう。
 詳細は忘れたが、わたしは大人げないことに「わからないとは書いていませんけれどね」と、チクッとメールを出してしまった。おそらく何らかの気まずさが数日間はただよったのだろうが、粽の件を尋ねるだけ尋ねて、またすぐその人は消えていった。

 いまならば、中味はほとんど同じヤフーの知恵袋や教えて○○などの掲示板で同じことを何カ所にも書いて、注意されてしまうタイプの人だったのかもしれない。

 共感だけ、「知ってるよ」だけを求めたにしては、ずいぶんと手間をかけた人だったなと、いまにして思う。

バターの二次利用

 昨日、クロワッサンを焼こうとして、ひさびさに大失敗の予感があった。原因はわかっているが途中からどうにかできる話ではない。最後までクロワッサン路線で突き進んだら、じゅうぶんにふっくらしないだけでなく、天板はバターの海になってしまい、片づけも掃除もたいへんになる。それに何よりもバターがもったいない。

 そこで、クロワッサンを楽しみにしていた家族に事前説明をして、パン生地をそのままセラベイク(強化ガラスの型)に詰めてケーキのように焼くと告げておいた。そして焼成後に、容器内にたっぷりあふれるであろうバターをすぐさま別容器に移してガーリックバターにするから、焼き上がり時間に台所に来て手伝ってくれと、予告しておいた。

 さっそく焼きはじめた。パンも心配したほどではなくそれなりに焼けている。だが温度が高まるにつれ、パンはガラス型の中でバター風呂にはいっているような状態となり、文字通りに「ぷかぷか浮いて」いる。高温のためバターは泡をふくんだように容器一杯にひろがり、いまにもあふれそうだった。「もしかして縁を越えて天板にあふれたりして」と、どきどきしながら、焼き上がりまで見守ること30分。

 家族を呼んだ。ここからは、短時間でやってしまわなければならない。
 まずは、焼けたパンを用意していたキッチンペーパーの上に1切れずつつまんで出した。そして、用意していた小鉢に市販のガーリック(練り製品)を入れてもらい、その直後にわたしが上から煮えたぎるバターを流しこんだ。ひとつ間違えると火傷などの事故になるので、要注意だ。そしてわたしが慎重にガラスの型を片づけているあいだ、家族には急いでバターとガーリックを混ぜてもらった。

 子供のころに「アリババと40人の盗賊」という話を読んだが、泥棒が隠れている壺に煮えたぎる油を差して回る描写があったと思う。少量のバターでも熱してあれば凶器だ。アリババの話の盗賊さんお気の毒だなとか、そんなことを思いながら片付け作業にかかった。

 3時間後、台所に様子を見に行くと、バターは温度が下がって固まっていた。いったんかなり熱したものではあるが、ねんのために冷蔵庫へ。ちなみに「ギー」という加工バターは、高温で熱したバターを練って保存するもので、本場では常温で保存しているし、たしか日本で流通しているものも常温で扱えたような気がする。わたしはねんのため冷蔵庫に入れた、ということだ。

 パンのほうも「バター風呂にはいっていたロールパン」のような味わいで、けっこう美味に仕上がったのが幸い。クロワッサンとしては失敗だったが、途中から計画を変更できてよかった。バターも無駄にならずに済んだ。

高円寺の醍醐(Daigo)が10月17日で閉店

 閉店予定のニュースを知ってから、せめてお弁当だけでも買いたいと思っているものの、Daigoの前を通るのは午後4時台が多く…お店の人がこれから並べはじめるんだろうなぁというタイミングで通過してしまう。

 入店した回数は多くないものの、雰囲気のよいお店で、お値段よりもよい洋食が食べられた。

 一度だけ、その日には食べるものが決まっているので買えないなぁ〜というときに、たくさん積まれていたのが残念。

 なんとか、近いうちに。

昔の人は、おせちを何日くらい食べていたのか

 おせちは、作るのは楽しいが、三が日までに、すでにヘトヘトになる。まだ残っているぞと、いいたくなる。ほぼ毎年のことだが三日目の昼食はおせちラーメンだ。ラーメンのトッピングとしておせち(エビやチャーシュー、かまぼこなど)を使う。

 だが、食べる苦労はあっても作るのが楽しいので、やめられない。

 七草がゆという言葉があるが、昔の人は七日目に胃を休めるほど、六日もおせちを食べていたのだろうか。昔は冷蔵庫もなかったので濃いめの味付けで保存していたに違いない。飽きたことだろう。

 去年まで、わが家の苦痛は「松前漬け」だった。かなりの日数これが残った。そこで今年は、ミニおせちセットのようなもので松前漬けがはいっているものを買ってみた。市販品は味が濃いが、少量だけ食べる分には、自分たちの作ったものを半月食べるよりはよい。

 今年は、もう少しで食べ終える。あとは煮染め、栗きんとん、黒豆だ。がんばる。

「ながら」が性に合っている

 いつも年末の流れとしては、掃除はたいしてせずに料理だ。クリスマスにローストチキンとケーキ、年末の数日間でおせち、年明け数日でピティヴィエ(ガレットデロワのフェーヴ抜き)。そしてなぜか今年は、成功度というのか、満足度が高いものができあがりつつある。

 ローストチキンはおそらく、買った鶏がよかったのだろう。そしてつけ置き時の材料も、初心に返ってできるだけよいものを使った。
 ロールケーキは昔やっていた配合にもどして(いつも津田陽子氏の「くるくるロールケーキ」だが、今回は分量をかつて慣れていたものにもどした)、そしてしつこいほど泡立てに念を入れ、そこまで混ぜなくてもいいのではというほどに混ぜた。

 そして今日、黒豆を煮ようと思ったのだが、あれが毎年つらい。吹きこぼれないように鍋の近くで番をしていると、寒いし飽きるし、つい「もういいじゃん」と、火を止めたくなるのだ。そんな気分で作るものだから、どこかしら、いまひとつの豆に仕上がる。

 だが今日は「どうせ長くここに座っているなら、バウムクーヘンでも作るか」と、煮豆をしながら菓子材料の準備、そして合間に調理器具を洗ったり、また材料を混ぜたりと、かなりゆったりと時間をかけた。バウムクーヘンといっても、ロールケーキと同じ型でどっしりとした生地を焼くので、要領は先日のロールケーキと同じだ。もっともあちらはしっとりなめらかなスフレ生地、バウムクーヘンはどっしりとした重い生地なので混ぜる手順と焼き時間が違う。
 配合はできるだけ忠実に、だが焼き時間は手探りで——本は18cm丸型で焼きながら重ねていくものだったが、わたしは一度に焼いてから重ねるつもりだったので焼き時間が違うのだ。

 焼き上がりまでは、なんとかうまくいった印象だったが、粗熱を取って紙をはずすときに、少しだけ焼きが甘かったと気づいた。おそらく焼成をあと1分追加か、あるいは温度をもう少し高くしておけばよかったかと。

 そんなこんなを「ながら」で作業しているうち、黒豆はいつになく美味に、ふっくらと仕上がった。

 これからも適度に「ながら」で作業していきたいと思う。

参考本:
 
毎年焼いているローストチキンは、こちらの本で。

ロールケーキは、こちら。

 

バウムクーヘンの配合(このブログ内の雑誌紹介)
スイーツ王国 (絶版で入手困難)
 

毎年愛用している、おせち本は、こちら。

日本橋の「たいめいけん」、再開発で一時閉店

 日本橋に出かけたときはこれ、と思っているのが、たいめいけん。なんと再開発の事情で今年の10月19日でいったん閉店し、来春に仮店舗を開始するという → 詳しくは公式サイトのトップページへ。

 あの周辺は何年もずっと工事をしていて、最近ようやく高島屋界隈が落ちついたと思ったら、今度はたいめいけんか。

 デパ地下などに出ているイートインスペースは、そのまま営業するのだろうか。

 何やらさみしい。かつては年に数回は出かけていたが、最近は年に1回も行かなかったかもしれない。もう少し早く知っていたら、出かけておきたかった。さすがにいまからでは、混雑しているだろうな。

井村屋のあずきバーで赤飯を作る話を読んで

 こんな記事が目にはいった。 → 2020.08.10 まいどなニュース炊飯器に棒アイスを入れる背徳感「こんなの初めて」 井村屋の「あずきバー赤飯」食べてみた

 白米(または餅米を混ぜても可)を炊飯器にセットして、井村屋のあずきバーを入れて炊くと、赤飯になるという。

 奇抜なアイディアだが、なんだか甘そうだなとまで考えたとき、そういえば義父母が岩手にいたころ、豆が金時豆のように大きくて、全体が甘い赤飯を出してもらったと思い出した。旅館からお土産に持ち帰った仕出しの赤飯もそうだったように思うので、家庭の味というよりは地域の味なのかもしれない。
 また、豆はあきらかに大きくて金時豆なのだが、呼ばれている名称は「ささげ」だったように思う。関東やほかの地域ではササゲといえばあずきと見分けがつかないような小粒の豆である。以前に岩手の人からささげのお赤飯を教えてもらったという人の写真を拝見したら、やはり大粒だった。全体が甘いかどうかまでは、写真なのでわからなかった。

 わたしは赤飯が好物で、先日は食べきれないほど蒸かして、赤飯おにぎりにして冷凍した。固めに炊いて市販のごま塩ふりかけをかけて食べるのが好きである。

「おなめ」

 以前に食べ物ブログのほうに配合を書いておいたのだが( → おなめ(作り方の配合))、田舎の親が何度も何度も「おなめが食べたい」と言っていたので、自分は「たぶんこんなものだろう」と、ネットにあった配合を自分なりに工夫して軽く発酵させ、親に渡しておいた。

 あれから何度送ったかわからないが、到着すると(まだ発酵していないのに)ひとくちなめて、寝かせながらなめ、自分の好きな副材料を入れて寝かせては、食べ頃になるとまたなめて…あっというまに終わってしまうのだという。

 そんな母が電話をよこた。家に定期的に通ってきてくれる看護師さんがおなめが好きだというので、わたしが送っている話をしたところ、自分も作りたいと言ったとのこと。そこで母はだいたいのところを説明したそうだが、看護師さんはどこをどう間違えたのか、やたらとしょっぱいおなめができてしまったらしい。そのため、母は確認のために電話をよこしたのだ。
 わたしは母に具体的な配合を話したことはなかっのたのだが、それでも、勘でそこそこ近い話を伝えたらしい。おそらくは、メモをして帰った看護師さんが何かを間違えてしまったのだろう。

 なりゆき上、また作って送ることになった。前回はたしか大量に送ったので2ヶ月くらいそれを食べると言っていた気がするが、3週間で食べきったという。次は看護師さんにも分けるのだろうから、もっと送らなければならない。ねんのために麦麹も多めに発注しておいた。

 あと何回、何年、自分の作ったものを親が食べられるかわからないので、いまのうちにせっせと送ってみようと思う。

 それにしても不思議なのは、わたしは自分で一度もその「おなめ」完成品を食べていないのだ。自分が食べていないものを人が喜ぶというのは、ちょっと気分が複雑である。ほんとうにうまいのだろうか…(?)。

楽天マガジンに「料理通信」がはいっていた

 これまでいくつかの読み放題サービスを利用してきたが、雑誌の「料理通信」はそういったサービスに含まれていないことが大半で、わたしの頭の中では高級紙扱いだった。紙で1000円強のところを、電子書籍で750円前後といった設定の販売がほとんどと思われる。

 ところが、まさかの楽天マガジン(月額380円+税)で、料理通信を発見してしまった。これ1冊を読むだけで元がとれてしまう。

 楽天の系列だけあってdancyu、散歩の達人、エル・グルメなど、とっつきやすそうな雑誌があることも特徴かと思う。
 31日間無料だが、そのあとを年払いで契約することにした。年に4000円弱(税込み)で料理通信やdancyuが読めるなら、ほんとうにありがたい。