北関東は、数十年前にはすでにソースかつ丼が定着していた。とくに群馬県の行楽施設などでは食堂にソースかつ丼があったように思う。群馬とひとくくりにしては申し訳ないが、わたしが幼少時に知っていた群馬は、太田、桐生、館林など、栃木県と混じりあっているあたりのことである。
で、昨日は急に「ソースかつ丼が食べたい。凝っていなくていいから、こだわりとか、店で出すようなのでなくていいから、シンプルで北関東っぽいのが食べたい」と、しみじみ考えた。
だが自分の頭の中のどこをつついても、それが「どこで」食べたものを基準にしている渇望なのかがわからない。ソースかつ丼は、家で食べるものではなかったのだ。わたしの幼少時は家で(一般的な)卵でとじたかつ丼ですら、それほど食べなかった。そして友達と出かけた先で小遣いをはたいて食べたのは、やはり卵でとじたかつ丼か、ラーメンやカレーが多かった。ソースかつ丼は、もう少しだけ日常から離れた感覚の場所、半日遠足の感覚で大人と出かけるとき食べたのかと思うが、そんな機会はかなり限定されていたはずで、記憶にここまで残るだろうか。
(ちなみに成人してから田舎に顔を出したとき、近所の店から弁当を取り寄せると言ってもらえて、ソースカツを添えた弁当をごちそうになったことがある)
では、自分の心の中を占めていた「あの味」とは何だったのか。
しばらく考えて、思い出した。
東京に出てきてまもなくのころ、少し歩いたところにセブンイレブンがあって(たしか高円寺で一番最初にできた店舗で、40年営業ののち閉店)、そこでたびたび買っていた「イカフライおかか弁当」である。あのイカフライ部分が、たしかソース味のたれをくぐらせたものだったように思う。
現在では検索しても当時の画像が出てくるはずはないのだが(復刻させるたびに小さくなっていく)、80年代中盤〜90年代ころは弁当のサイズが大きく、平らに盛ったライス部分におかかがまぶしてあり、長いイカフライが長方形の弁当を斜めに横切るようにおいてあり、そのイカフライの先にいくつかのおかずが添えてあるものだった。大きいのに税抜き380円くらいだったと思う。税抜きと書いているが当時はまだ消費税が開始されていなかった。竹下首相のころに実施されたのはもう少し先である。
わたしは偏食がまだけっこうあったころで(現在もあるが当時は強く残っていた)、その弁当は蓋の上からおかずがすべて見通せることで苦手なものがないことがわかりやすかく、よく買っていた。ちなみに当時ほかほか亭などの弁当屋では、ライスもおかずも蓋とセットになった発泡スチロールのような簡易容器(現在も納豆容器で使われるような)が多く、買って帰宅してから中を見るものであったため、見本の写真ではわかりづらかった苦手な食品に遭遇することがあった。その点、セブンイレブンには世話になっていた。
そうか、あの「イカフライおかか弁当」のソース味が、わたしの記憶しているものなのかもしれない。
数年に1回くらいは復刻もしくは同名の弁当が発売されているようだが、みなさんのブログの写真を見たかぎりでは、現代的に普通サイズで食べやすい商品のようである。量はかなり減っても、値段は400円前後らしい。