すべての言葉は、辞書にない

 角川映画「復活の日」(1980年)で有名になった曲、ジャニス・イアンのYou Are Loveに、当時のわたしが「辞書にないなぁ」と悩んだ単語があった。

 それは Why the line? だ。

 曲の出だしから What’s the time? Where’s the place? Why the line? … という具合につづいていく。

 意味としては直感で「いつ、どこで、どういったわけで…」と歌っているのだとわかったが、そんなlineの使い方を知らなかった。そして中高生が持っていたレベルの英和辞書では、当時のわたしの疑問に答えてくれなかった。

 のちに、英英辞書(現在ならネットで用例を無料検索できる)で項目を目にして、やはり直感は正しかったのだと理解できた。筋道、方向性などの意味でlineが使われていたのだと。

 そして次は、oldだ。

 東京に出てきてまもなく、英語のビデオを見ながら会話を学ぶ授業でのことだった。

 田舎から都会に住む姉を訪ねてきた世間知らずの少年が、姉と待ち合わせしているあいだに話しかけてきた見知らぬ中年男性と、親しくなってしまう。やってきた姉は驚いて、弟をそれとなく引き離すようにしつつその男性と会話するのだが、その人物は笑顔で「いつものようにここに来たら目の前に old Tommy (少年の名前はTommy)がいたものだから」と、語る。話し相手になってくれたことに姉は例を言って、弟を連れて歩き出し、知らない人には注意しなさいと告げる。

 そう、この old だが、直感では「馴染みの○○くん」のようなときに old を使うのだろうと考えた。会ってまもなくの自分の弟に、気さくにoldをつけて表現するような男性に、姉は警戒せずにいられなかったのだろう、と。

 ところがこの old が、またもや、辞書になかった。
 当時のわたしは中高生用よりはよい辞書を持っていたが、それでも載っていなかった。

 これものちに、英英辞書や外国の文章を検索して確信できたのだが、あのころのストレスといったら、なかった。こんな簡単な単語、意味は広くサクッと載せとけよ〜という無茶振りである。些細なものまですべて収録できないご苦労は、もちろんいまでは理解しているが、当時は辞書に物足りずにいた。

 だがそのoldに関しては、ちょっと不思議なことがあった。20人くらいで同時に動画を見ていて、教師はアメリカ人女性(幼少時からときどき日本に滞在して日本語も少しできる)だったが、誰ひとりその女性に「oldってなに」と、声に出して聞かなかった。わたしも「直感でわかっているから、わざわざ口にしないのかな」と、声に出さずにいた。

 こういうところで黙ってしまうのはなぜなのかわからないが、なんとなく「わざわざ聞かなくても、いっか〜。」と思ってしまったのだろう。結果としてその後しばらく、頭の中にくすぶってしまったのだが。

 そこで聞いておけばよかったという考え方も、あるかもしれない。だが時を経てわかった経験で考えれば、命に関わるようなことでもないのならば、ふさわしい時期がくるころ自分で調べるか、結論がわかる日が来るから、それでいいのではという気もしている。