飲食業、接客業、寒中見舞い

 たとえば親しくもない人から職業を聞かれたり、アンケート等の職業欄に「三丁目のハンバーガーショップで調理」と答える人はまずいないだろうし、多くの場合は飲食店勤務であるとか、飲食業と答えるだろう。

 尋ねる側にとってそれがよほど重大な要件であれば、接客業と書いた人に「具体的にはどんな業種ですか」と細かく尋ね返すこともあるかもしれないが、だいたいの場合は、聞く方も聞かれるほうも、適度に流して差し支えないような用件と思う。要は「聞いたことにスムーズに答えた、やりとりが成立した」という、なんとなくの達成感が大事なのではないだろうか。

 接客業といってもホテルなど業種全体としての接客を指すこともあれば、飲食業と重なる部分もあるし、また総合玄関があるような大企業では受付で接客を専門とするスタッフも置いているだろう。そしてもちろん水商売も接客業に含まれる。
 職業を尋ねられても、たいした用件ではないと思えば「接客業」と答えることもあるだろうし、あるいは水商売のニュアンスを少しでも排除しておきたいならば、もう少し狭い意味の言葉に代えることも考えられる。

 なぜこのようなことを書いているかというと、広い意味の単語を使って「あとはなんとなく察して」ということは、日本語以外では通じにくいように感じることがあるからだ。広い意味の言葉に多少の説明を加えるとき「そもそもなぜそんなに広い言葉を使うのか」と不思議がられ、ツッコミがはいることがある。

 これまで、飲食業、接客業などの広い言葉のほか「年賀状を出せなかった場合など(喪中などなんらかの事情があった等)は、寒中見舞いとして葉書を出すことがある」と説明した外国人から「わたしは日本人の知り合いにそういう表現(winter greetingなどの言葉を使って)で葉書を書いてしまったが、自分が喪中と勘違いされたり、何か失礼にあたった可能性はあるか、と聞かれたことがあった。

 何かを察してもらえるだろうと曖昧に「寒中見舞い」とすることが、言葉を英語に置き換えてseasonal greetings / winter greetings とすることにより、相手には狭く伝わってしまう——では「その言葉=喪中なのか」という疑問を生じさせる展開になるというわけだ。

 接客業には水商売も含まれるため、その表現のあとに「水商売の人もいるから」と例として紹介したつもりが、接客業は水商売を指すのか指さないのかと、より具体的にするようツッコミをいただいたこともある。飲食業もだいたい同じような展開だった。

 かといって、どうせ突っこまれてしまうからと最初から意味の狭い言葉で説明してしまうと、それもまた問題だ。元の言葉が広い以上は、いったんは広く訳さないといけないはず(時間が許せばだが)。それを考えれば同時通訳という仕事は臨機応変な取捨選択がたいへんだろうなと、心から思う。