創業から96年にして近日閉店: 丸十ベーカリー ヒロセ

 2025年で100周年になるはずだった高円寺駅近くのパン屋「ヒロセ」が、11月いっぱいで閉店とのこと。経営状態のほか、3代目店主である廣瀬主税(ひろせちから)氏の体調がすぐれないことが大きな理由であるようだ。昨日はせっかく退院したというのに無理をしてシベリアを作ってしまい、翌日また入院されたそうだ。

 100年近い店の3代目となれば、ご自分の代で店の灯火が消えてしまうのをどれほどにかつらくとらえていらっしゃるはずだ。だが、いまにして思えば、ご無理が多かった。

 わたしが店のすぐ近くに住んでいたのは30年以上前だが、朝は品数が少なめとはいえ通勤通学の人を考えてサンドイッチなどを売り、昼近くには品を増やして地元の客用に販売、そして夜には学校帰りや勤め帰りの人が買えるような商品があった。遅くまでやっていた。夜の10時過ぎでも開いていたと思う。さらに、当時の店舗(現在の店舗より2軒ほど駅寄り)では、菓子やケーキ類も種類が選べるほどあった。従業員が何人いるのか、どういうシフトなのかはわからなかったが、朝から晩までとは、まさにこの店のためにあるような言葉だった。

 たまに買っていただけだが顔を覚えてもらっていたようで、店主さんに話しかけてもらったこともある。

 その後、商店街入り口近くに移転されたが、また数年後に現在の場所へ。それから少しして、改装のため短期間だが店を閉めた。ちょっとした工事がはいって模様替えがおこなわれたが、早稲田通りにあった本店のビルを手放して、商店街の「駅前店」のほうでパンを焼くことになったらしい。

 かつて本店のビルでは杉並区の学校給食を担当していたらしかった。その焼く量が半端ないため、かなり離れた場所でもパンの香りがしたものだったが、手放すことになるだいぶ前から1階にあった売り場を開けなくなって、工場のみが稼働していた。
 その場所はすで更地になり、工事がはいっている。

 96年つづいたというのは、すばらしいことだ。だがこの先ずっと無理をして「名前」を残すよりも、無理をせずに休み、人々の心に残る存在となることは、どれほどつらくても、必要かつ価値ある決断であろう。

 ヒロセさん、ずっと高円寺にいてくれて、ありがとう。