丁寧すぎる人

 数日前の炎天下、玄関のチャイムが鳴った。配達の予定はなかったので「セールスか、宗教か、それ以外か」とインターホンを取ると、60代くらいに聞こえる丁寧な男性の声。

「あの、わたしですね、○○と申しまして」と、名字から用件をはじめる。…いや、これはまずい。これが女性の声ならほぼ間違いなく「朝起き会」だ。

 はあ、と聞いていると「孫と一緒に○○方向からずっと歩いてきたのです」と、予備情報まで言う。これも相当まずい。用件がわからないうちは、こちらも警戒して、かなり怪しい予想をしてしまいそうになる。

 ところが最後まで聞くと、お孫さんと一緒に歩いていたのは自転車がパンクしたから(?)で、わが家のすぐ近くの路上に自転車の空気入れが見えたので貸してもらえないかということらしかった。思わず、テレビCMの松重豊ではないが「それ、早く言ってよ」である。

 その自転車の空気入れはわたしのものではなかったので、おそらく所有者はどこそこの人ですとお伝えすると、去っていった。無事に借りられただろうか。

 丁寧すぎる人を疑ってしまう世知辛い世の中ではあるが、せめて男性がお孫さんと無事に帰れたことを祈るのみ。