バターの二次利用

 昨日、クロワッサンを焼こうとして、ひさびさに大失敗の予感があった。原因はわかっているが途中からどうにかできる話ではない。最後までクロワッサン路線で突き進んだら、じゅうぶんにふっくらしないだけでなく、天板はバターの海になってしまい、片づけも掃除もたいへんになる。それに何よりもバターがもったいない。

 そこで、クロワッサンを楽しみにしていた家族に事前説明をして、パン生地をそのままセラベイク(強化ガラスの型)に詰めてケーキのように焼くと告げておいた。そして焼成後に、容器内にたっぷりあふれるであろうバターをすぐさま別容器に移してガーリックバターにするから、焼き上がり時間に台所に来て手伝ってくれと、予告しておいた。

 さっそく焼きはじめた。パンも心配したほどではなくそれなりに焼けている。だが温度が高まるにつれ、パンはガラス型の中でバター風呂にはいっているような状態となり、文字通りに「ぷかぷか浮いて」いる。高温のためバターは泡をふくんだように容器一杯にひろがり、いまにもあふれそうだった。「もしかして縁を越えて天板にあふれたりして」と、どきどきしながら、焼き上がりまで見守ること30分。

 家族を呼んだ。ここからは、短時間でやってしまわなければならない。
 まずは、焼けたパンを用意していたキッチンペーパーの上に1切れずつつまんで出した。そして、用意していた小鉢に市販のガーリック(練り製品)を入れてもらい、その直後にわたしが上から煮えたぎるバターを流しこんだ。ひとつ間違えると火傷などの事故になるので、要注意だ。そしてわたしが慎重にガラスの型を片づけているあいだ、家族には急いでバターとガーリックを混ぜてもらった。

 子供のころに「アリババと40人の盗賊」という話を読んだが、泥棒が隠れている壺に煮えたぎる油を差して回る描写があったと思う。少量のバターでも熱してあれば凶器だ。アリババの話の盗賊さんお気の毒だなとか、そんなことを思いながら片付け作業にかかった。

 3時間後、台所に様子を見に行くと、バターは温度が下がって固まっていた。いったんかなり熱したものではあるが、ねんのために冷蔵庫へ。ちなみに「ギー」という加工バターは、高温で熱したバターを練って保存するもので、本場では常温で保存しているし、たしか日本で流通しているものも常温で扱えたような気がする。わたしはねんのため冷蔵庫に入れた、ということだ。

 パンのほうも「バター風呂にはいっていたロールパン」のような味わいで、けっこう美味に仕上がったのが幸い。クロワッサンとしては失敗だったが、途中から計画を変更できてよかった。バターも無駄にならずに済んだ。