映画: アンテベラム(2020)

 アメリカの作品。おもにオンデマンドで配信されているが、一部の国では劇場公開もされたという。わたしはU-Nextで見たが、Amazonプライムでも配信(2022年5月現在 399円)→ Prime Video アンテベラム

 まずは、アメリカ南部で優雅に暮らす白人女性と少女、その家屋、周辺のプランテーション、脱走しようとして拘束や殺害される黒人奴隷の映像が、おそらくは1シーンの長回しで目の前に現れる。予備知識もなく見た映画なので「なんだこの残虐さは」と、目を背けたくなるほど理不尽で、衝撃的な描写がつづく。主人公の黒人女性は罰として焼き印まで押されてしまう。
 家政婦として、農場の担い手として酷使されたほかに、夜は性交まで強要される主人公。

 だが、そのあとで、画面は一転して現代のアメリカになる。人権問題で熱弁をふるい、人の心をつかんで成功している黒人女性は、そこまでのシーンで奴隷として登場していた女優と同じだ。さらに何人か、農場にいた白人らと同じ顔が登場している。そこで頭が混乱してしまう——これは、どういう話なのか、と。

 先祖の話にでもなぞらえて物語が展開するのかと、あれこれ見ているうちに、中盤以降で謎が解ける。はっと気づいたときの衝撃。そしてその根本にある果てしなき「悪意」は、考えただけで気分が悪くなるほどだ。

 主人公は最後まであきらめず、戦い抜く。
 それらの描写を、見て「すかっとした」と思える人は、多くないかもしれない。だが、されたことを考えたらまだ足りないくらいの蓄積が、この主人公にも、アメリカの黒人社会にもある。

 白人は好まないであろう映画だ。アメリカで劇場公開を狙わずオンデマンドにしたのは正解だろう。