怖いのは、幽霊ではなく

 このところ、物件探しのサイトを見ているせいか、SNSの広告欄に「怖い部屋」などのタイトルで、怪談または事故物件の本の宣伝が出ることがある。もともと本は好きで、怪談もよく読むので、不動産の検索をしはじめた相乗効果でかなりの広告が「怖い部屋」系で占められる日もあるようだ。

 わたしは、事故物件や縁起の悪そうな歴史を持つ場所を、あまり賃貸/購入したいとは思わないが、その理由は幽霊が怖いからではない。周囲に暮らす人々の記憶にその情報が残ったままの場合、わたしが住む家が「あ〜、あの家」という、妙な関心を引いてしまう。そこに暮らす自分や家族の人柄ではなく「あ〜、あの家」扱いというのは、暮らしていく上で健全とは思えない。

 歴史に名を残すような刑務所(兼処刑場)があった跡地であっても、お得なタワマンができますよと宣伝されれば住む人はいるだろう。土地の由来を知らない場合も含めて何十人もが契約し、入居すれば、周辺住民もいちいち気にしないはずだ。気にするもしないも、人それぞれだろうとは思う。
 それに気にする人の場合でも、直近の10年くらいならばともかく、50年も100年も昔に刑場でしたというのは気持ち悪さが薄れるものかもしれないし、直近のものほど人の噂にも上らない。

 だが1軒家とか、地域内の狭い区画で「このあたりで以前に、こんな悲惨な事件があって〜」となれば、話は別。幽霊が化けて出るよりも、近隣住人との付き合いが健全にできない可能性のほうが、よほど心配だ。

 さらに、書くまでもないがその事件が未解決だったり犯人が逃走中となれば、わたしは契約も入居もしない。

 わたしは子供のころから怖い話(幽霊話を含む)、不思議な話(UFOなども含む)が大好きだったが、ひとり暮らしをしていたあいだも、何か出たとか見たなどの実体験が、ほとんどない。自分に関してはけっこう現実的なのだろうと思う。

 幽霊を気にする暇があったら、実生活の人間関係を良好にしておいたほうが、遙かにお得である。