怖い話が好きだった

 子供のころから怖い話が好きで、テレビ番組でも本でも、片っ端から手を出していた。だが自分は別にとてつもない体験をしたということもなく、あくまでフィクションとして楽しんできた。

 この10年くらいだろうか。実話怪談系の本が非常に多く、ライターさんも増えてきて、Kindle Unlimitedで読めるような手頃な怪談に不自由しなくなった。時間つぶしにもよいので、ときどき読む。中には文章がうまく取材対象がいきいきとしている作者もいて、なかなか読みごたえもある。

 だが、本の方はともかくとして、映像としてはどうだろうか。

 実話怪談系の映像というのは、えてして「それ、ないだろ」という印象になってしまう。実話怪談のふりをしたフィクションならいいのだが、実話怪談に限りなく近い宣伝文句にしておきながら「こりゃ、ないだろ」という雰囲気がただよってくると、見ていられない。

 たとえば、同じ体験談であっても、山に関連するものは、けっこう楽しい。
 山小屋に暮らしている人は(職業として山小屋に勤めている人を除いては)いないし、その体験は多くの人にとって非日常である。「怖いことがあっても無事に下山できれば、別の明日がある」という思いから、夜が明けるのを息を潜めて待ったり、できるだけ怖さに深入りせずに帰宅するのだろうから、話にオチがなくても「ああ怖かった」でいいのである。

 だが話の舞台が自宅だったり地元の町であったりして、そこで恐ろしいことがあったら「怖かったので布団の中で震えながら朝を待ちました」は、ちょっと待て、と思うのである。日常にはいりこんだ何らかの恐怖は、毎日そこに暮らす人間としては逃げ場がないのであるから、話が違う。「怖かったけれど朝を待ちました、あれはなんだったのでしょう」で終わらせては、かなり嘘くさいのだ。調べろよとツッコミを入れたくなる。

 ある程度のオチがある、実話っぽい怪談(とくに映像作品)の登場を、お待ちしている。